地政学リスクが高まる局面で日本円が買われる「有事の円買い」は、長年にわたって市場の常識とされてきました。2008年の世界金融危機や2020年のコロナ禍初期においても、円高が進む場面が多く見られました。しかし今、その常識は大きく崩れ去ろうとしています。
米国とイスラエルがイランとの戦争状態に突入し、中東の地政学リスクが極度に高まっている現在、円は対ドルで上昇するどころか、2024年7月以来の安値となる1ドル=159円台後半まで下落しました。典型的な「有事」であるにもかかわらず、なぜ円は買われないのでしょうか。
原油高が日本の円安圧力を強める理由
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円が売られている最大の理由の一つが、原油価格の急騰です。米国とイスラエルによるイランへの攻撃以降、ホルムズ海峡を巡る封鎖リスクが高まり、北海ブレント原油は一時1バレル=120ドルに迫る高値を記録しました。
エネルギー輸入の95%以上を中東に依存する日本にとって、原油高は輸入コストの増大を招き、貿易収支を急激に悪化させます。エネルギー代金の支払いのために「円を売ってドルを買う」実需が増えるため、地政学リスクの高まりがそのまま円安圧力に直結する構造になっています。
地政学リスク下で進む「ドル買い」へのシフト
円が買われない一方で、資金の逃避先として選ばれているのが米ドルです。原油取引の大半はドル建てで行われるため、エネルギー価格の上昇は世界的なドル需要を押し上げます。さらにシェール革命によって米国は今や世界最大の産油国であり、エネルギー資源を輸入に頼る日本とは対照的な立ち位置にあります。基軸通貨としての圧倒的な流動性と信用力を持つドルが資金の避難先として機能した結果、相対的に円が売られる展開となっています。