◆失踪癖がある父と連絡がつかなくなり…
Suzukaさんが育った環境は一言で表現しづらい。大学時代に家業から期間限定で解放された母親が、父親と出会って結婚。父親は一カ所に留まれない性質で、いくつもの職業を転々とした。経済的には母親の実家に依拠する面も多分にあった。「父はもともとうつ病を患っていて、10年に1回くらいのペースで失踪騒ぎを起こすような人でした。あとから母に聞いた話では、母の妊娠中にもウイスキーを瓶で一気飲みして救急搬送されたようです。ただ、元気なときは元気で、手先も器用なので何かを作ることに熱中している時期もありました」
前述のとおり名門進学校へ入学を果たしたSuzukaさんだが、父の失踪癖に翻弄され、通学が危ぶまれる場面もあった。
「入学直後に父が失踪して、しかも戻ってきたときに『会社を辞めてきた』と言って家族を驚かせました。経済的に傾くことが予想されたので『学校を辞めなければならないかも』と不安でした。しかし学校がいろいろと補助金制度などを調べてくれて、とりあえずその騒動は1年くらいで収束したのだと記憶しています」
大学卒業前後の父の失踪もまた、Suzukaさんの人生を大きく揺らす。
「ブライダルカメラマンとして生きようかとも思いましたが、父がまた失踪したため、実家から通える就職先を探して3ヶ月間だけ勤務しました。その後、また映像制作の会社に戻って勤務しましたが土日勤務が多いため、平日に性風俗店で働いて時間を埋めることにしたんですね」
紆余曲折あれど概ね生活が安定してきた矢先、事件が起きた。
「その日は父以外の家族が別々で旅行に出ていて、誰もいなくて。母から『お父さんと連絡がつかないから見に行ってほしい』と言われて。それで見に行ったら、ベランダにぶら下がっていました。『助けてあげられなかった』と思いました。『連れて行かれちゃったな……』って」
Suzukaさんが部屋に入ったとき、朝食の準備がなされ、風呂場にはカビ取り剤が撒かれたばかりだったという。「もう1分待てば抑えられた衝動だったはずなんですよね」とSuzukaさんは俯いた。
◆女王様として働き、人生の軸が見つかった
自らの顧客にM寄りの性癖を持つ人が多いことから、女王様として活動し始めたSuzukaさん。そこでなかったはずの“物語”を再獲得したと話す。「昔は、ある程度高い水準の教育を受けた自分、カメラマンとしての自分、性風俗店で働く自分のそれぞれがまったくバラバラでした。けれども女王様をやったときに、『ベッドのうえでこれまでの経験が輝いている』と思えました」
それはなぜか。Suzukaさんは言う。
「お客さんがどのような人生を経てこの場所に来てくれるかが理解できるんです。だからこそ、どんな向き合い方をすればいいのかがわかって」
SMというとどうしても「痛い・苦しい」イメージが伴うが、それは一面的な捉え方に過ぎない。
「本当に物理的にムチで叩かれるだけなら、誰にされても同じはずです。けれども、Mの人たちがもともと痛みを抱えているからこそ、どんな人にされるかが重要なのではないでしょうか」

