◆「相撲を取ってください」と頼んできた男性客

「顔立ちが強面で、ガタイもよく、ひと目見て『キックか総合格闘技出身だな』とわかりました。対面するなり、私に『相撲を取ってください』と言ってきたんです。最初は勝てないから無理だと断りました。けれども、彼が『プレイしなくていいから本気で闘ってほしい』というので応じたんです。当然、最初は負けます。けれどもだんだん要領を掴めてきて、10回目には彼をベッドに押し倒すことができました。その場で、彼は泣き始めたんです。
彼は地元志向の両親から将来を嘱望され、すでに結婚する人も決められていることを話してくれました。そのなかで何がしたいのか自身でもわからなくなっているのだと感じました。おそらく『男らしくあらねばならない』というジェンダーロールの押し付けによって、彼もまた苦しんでいたのだと思います。残り時間、ずっと頭を撫でて時間終了を迎えました」
ままならない日常を生きる人々の抱えきれない思いを受け取ることで、Suzukaさんは自らの人生もまた再び構築することができたのだという。
父親の死をきっかけとして、大きく塞ぎ込んだSuzukaさんは、現在対面での接客は行っていない。筋肉女子のインフルエンサーとしてその人気を博し、「ありがたいことに生活はしていけています」と話す。
今後はストリッパーとしてゼロから修行の道へ入る。繋ぎ止めては離れてを繰り返すSuzukaさんの身体と精神は休まることがない。けれどもきっと、その眩しい笑顔で客の前に立つ日がくるだろう。そしてそのパフォーマンスは人生の一部を欠損した人たちを埋め合わせてくれるに違いない。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

