“パティシエ”起源のフランスへのリスペクトを込めて

Q.高橋さんのデザートを食べさせていただき、またSNSを拝見する中で「フランスの伝統菓子」の要素へのリスペクトを強く感じました。ヴァシュラン、サヴァランetc. Authenticが目指すあるべきデザートについて教えてください。
高橋シェフ「パティシエという職業をやっている以上、この言葉や職業の起源はフランス。一生やっていくもので、お菓子作りに出会えて幸せな人生だなと思っています。19歳の時に初めてデザートを作ったときに天職だと思いました。この時、デザートというものを誰が生み出し、誰が受け継いできたのか凄く興味がわいたんです。
ルーツを掘っていく中で、今では当たり前に存在する“パティシエール(カスタードクリーム)”みたいなパーツや“ミルフィーユ”みたいなケーキなど、何もアイデアも知識もなかった世界で生まれたものに驚き“自分が生きているうちにこういうものを生み出すことができるのであろうか?”と思ったほどでした。
だからこそ、誰かが継承してくれたその素晴らしい文化を生まれた背景や起源を理解した中で、アウトプットすることを大事にしています。例えばペッシュメルバという桃のデザートを“真似してみよう”じゃなく、誰がどうやって生み出したのか。そういう思考を持つことが美味しいものに向かっていくと思っています。」

Q.なぜデザートコースのお店にしようと思われたのでしょうか?
高橋シェフ「“Authentic(オーセンティック)”という名前をつけたこともそうですが、まずはデザートをコースで食べるということを日本に定着させたいと思っています。実際に昨今のミシュランの傾向でもそうですが、デザートコースのブームは来ている。でもこのままいくと一過性のもの(=ブーム)で終わってしまい、10年ぐらい日の目を見なくなるのではないか? そんな危機感を持っています。

コースの組み立てについては、フレンチと類似していると思います。小さいアミューズからはじまって、前菜があって、コースが進むにつれて口にするものの温度感が上がってくるイメージです。プレゼンテーションもフレンチからインスピレーションを得ています。タルトに別添えでソースを仕立てたり、フレンチ風のソーシエールでかけていく感じとかもそうですね。」
Q.高橋シェフのスペシャリテを教えてください。
高橋シェフ「“スペシャリテ”というものは、すぐに語るべきだと思っていません。哲学として何年も何年もやって滲みでた一滴が、良い一皿になる。私が働いてきたレストラン『NARISAWA』がそうでした。デザートはレストランの料理には敵わない部分があり“所詮お菓子でしょ?と”言われ、思われてしまうもの。料理と比べて、お菓子の持つ歴史や素材のバックグラウンドまで考えて作るパティシエが本当にいないと思っています。だから、使用する食材の“農園や産地”のアピールだけで終わってしまう。
今回コースで使用した大和橘でいうと、その文化を守っている人がいます。それを知ってもらい、感じて食べてもらうと美味しさも違う。なぜそれを使ったか、なぜその選択をしたかが大事だと思っています。」
「NARISAWA」で生まれた“メロンソーダ

Q.今お話にも上がった、ワールド50ベストレストランに10年連続選出された「NARISAWA」でのご経験について。この経験があって、様々な試行錯誤をされたと思います。ご自身のデザート観で、この時に磨かれたことや印象深いエピソードがあれば教えてください。
高橋シェフ「『NARISAWA』では、クリエイション能力を圧倒的に鍛えられました。年間100レシピぐらい考えます。レストランで出すデザートメニューだけではなく、外での監修やケータリングもあり、幅広い場面で考えました。この数は3日に1回、新作をださないといけないペースです。しかも『NARISAWA』レベルを求められました。
自分がストックしているアイデアや技術でやっていくと、自分の想像の範囲でしかできなくて、限界を感じていました。それでもシェフにプレッシャーをかけられ、当時は自分の限界を突破していましたね。その時に、10~12種を同時に試作しながら日本の昔ながらの“メロンソーダ”を題材にしたデザートメニューのレシピが生まれました。ディルやハーブを使いお酒をきかせた大人のメロンソーダ。今持っているパーツで何ができるのか、5分ぐらいで思いつき考えたのがこれでした。シェフに提案すると“これだよ、こういうのだよ、万国共通で美味しいと思う”といわれて、目が覚めました。
この時期の血のにじむような経験、世界トップレストランのシェフパティシエをやる責任感は自分を律して、高めてくれました。単純に『NARISAWA』のシェフの料理のクオリティが異次元で、全皿にエピソードがあり、全皿がスペシャリテになるもので、そこには1mmも油断も隙もない。
ある時に焼いた茄子と茄子のピューレに、トマトのシード覆い、ペンタスの花で飾った一皿がありました。『祇園祭』というスペシャリテで、山鉾(神輿)をイメージした盛り付け。祇園祭の五穀豊穣への願いを込めた一皿でした。なぜ京都賀茂茄子なのか、なぜこのクリエイションか、そのエピソードの凄さをみて“こういうデザートを作りたい”と強く思いました。
『NARISAWA』のメインコンセプトは“日本”であり、日本の豊かな自然、里山文化、先人たちの知恵を料理で表現し、もう一つのコンセプトとして“健康”や自然環境に持続可能(サステナブル)な美食を提供してきました。食材の選定を徹底し、革新的里山料理と言う独自のスタイルに行き着き、それはとても難解なコンセプトのレストランだと思います。環境保護や社会が抱えている問題提起を料理を通してしなければならない。
“根底は世界平和を願う気持ちがあるんだよね”
そのシェフの言葉に、こういう素晴らしい人間性だからこそ、こういう皿が生まれるんだと気づき、スペシャリテを追うのをやめたんです。先ほどスペシャリテの質問があったかと思いますが、嘘偽りのない仕事をし続ければ、きっとそれがスペシャリテになるんだろうと思っています。」