◆「過労死ライン」の日常と歪んだ連帯感
ぶっくまさんの日常は、月170時間の残業が常態化する過酷なものだった。朝9時に出勤し、退勤は連日23時過ぎ。終電ギリギリまで働き、睡眠時間は5時間程度。翌朝は前夜の疲れで起きられず、滑り込むように出社しては夜中まで働くというサイクルを繰り返していた。社内には、現代の感覚では理解しがたい特異な文化が存在した。残業時間がかさむと管理職が注意を受けるため、実態よりも残業時間を少なく申告して「課長を助けよう」という謎のノリが蔓延していたのだ。サービス残業が「上司への応援」として肯定される空気があったという。
職場は定時退社を許さない同調圧力に満ちていた。本部長クラスの人間ですら、ごく稀に定時で帰る際にはフロア中に響く声で「定時になったので、早退します!」と宣言して去っていくほどだった。
定時に帰ることが「イレギュラーな早退」と同義に扱われる土壌があり、かつてぶっくまさんが空気を読まずに定時で帰った際には、実際に叱責された。
さらに、周囲の極端な事例が危機感を麻痺させた。一週間会社に泊まり込む同僚や、月500時間労働という信じがたい話を耳にすると「自分はまだマシだ」と誤った比較を続けていた。心身の限界を削り、ただ働くためだけに生きているようなループの中に、ぶっくまさんは身を置いていた。
◆訪れた転機と危機感!きっかけは本との出合い
現状を疑うきっかけは、同じ現場にいた他社の知人だった。彼は社交的で要領が良く、内向的なぶっくまさんとは対照的なタイプだったが、なぜか気が合った。ある日の昼休み、彼に誘われて立ち寄った書店で、ぶっくまさんは衝撃的な出会いを果たす。それまでまったく縁がなかった「自己啓発本」の存在を知ったのだ。
私生活においても、結婚した妻との間に新しい命を授かるという大きな変化があった。残業が常態化する働き方で、果たして子どもを育てていけるのかという猛烈な危機感に襲われる。
疲弊しきった先輩たちの姿を「数年後の自分」として重ね合わせたとき、今の環境に居続けることへの疑問が生まれた。「このままでは家族を守れない、使い捨てられてしまう」現状を打破し、自分を変える方法として、彼は貪るように本を読み始めた。

