◆移住して「猟師になる!」と宣言。両親はポカーン
――東京から山梨に移住して猟師になると周囲に伝えたときに、ご家族やご友人はどんな反応だったのでしょうか?江口:両親はポカーンって感じでした(笑)。突然、何?って。ただ、友人たちは別に反対することもなくて。もともと思い切った行動をするタイプだったからですかね。
――それまでの江口さんをよく知っている方からすると、驚きはあまりなかったのですね。
江口:そうですね。大学のときに交換留学みたいな制度を使って韓国に行ったんです。それまで韓国に全然興味なかったのに、 友人に誘われたのがきっかけで。現地の学校で出会った韓国の学生が、日本語をめちゃくちゃ流暢に話していたのに驚いて。だったら私は韓国語を習得しないと、と思ったんです。
大学を卒業した後、5年ほど働いてある程度貯金して、「ちょっと韓国行ってきます」って2年半ほど韓国に住んだことがありました。実地で身に着ける方が早いかなって。現地でアルバイトしながら学校に通って日常会話はできるようになりました。別に仕事に活かしたりはしていないんですけどね。そうそう、北京経由で北朝鮮に遊びに行ったこともありましたね。そういう自分を見てきているので周りも、「今度は山梨で狩猟」と聞いてもそこまで驚かなかったと思います。
――ご友人が遊びに来られるとか。
江口:今、高校のときの同級生は結婚して小学生ぐらいの子供がいる人も多くて。年に4、 5回家族で泊りがけで遊びに来てくれる友達もいます。お父さんたちは狩猟に興味があって山に一緒に入ったり、子供の食育にもいいね、という話にもなったり。
実際に猟をして手に入った新鮮なお肉を目の前でさばいて食べると、だいたい皆さん美味しいと言われます。みんなで食べるとより美味しいですしね。うちでは自家消費用に冷凍していて週5ほど食卓に。ひき肉にすると使いやすいですし、ローストビーフみたいにもできたり、冬は鹿しゃぶも。教えてもらってレシピが増えてきました。
高校のときの後輩が絵を描いていてロゴデザインをお願いしたんですけど、彼女も年に数回遊びに来てくれて一緒に山へ行きます。狩猟文化をわかった上で描いてくれています。
――はじめはポカーンとしていたご両親は、その後は。
江口:遊びに来てくれますよ。実家でもともと犬を飼ってるんですけど、ここで生まれた子を飼うと言って連れ帰っていきました。


◆命をいただいているんだ、という気持ちで
――免許を取ると狩猟ができるものなのでしょうか?江口:試験は1日講習を受け、その後受験する、という流れです。ただ、狩猟免許を取っても、3年の更新をしない人は多いです。免許を取るのと実際に猟をするのは全然違います。近くの山にシカがいそうだ、と思っても山も誰かの土地ですし、勝手に入って猟犬を放すなんてことはできないわけで。初心者はどこに行って何をしたらいいか、全然わからないです。
猟は1人ではできないことも多いです。山梨なら山梨県に狩猟税を納めれば県内で猟はできるのですが、地元の猟友会がいるので勝手にやると喧嘩になっちゃいますよね。地元の人と関係性を築こうにも、地域で昔からある連帯を大切にしていて、外から入りにくいケースも多いと聞きます。その点、この地域は、外部からの人の受け入れに積極的でした。女性だったから優しくしてもらえたっていうのも少なからずあるとは思います。一緒に猟に出る以外にも、お茶を飲んでご飯を食べて話をして。今では地域のお祭りとか運動会に誘われたり、畑空いてるから使いなよ、野菜持って帰りなよ、とか本当によくしてもらっています。
――地域のベテラン猟師さんたちに、シカやイノシシの解体も教えてもらったのですか?
江口:最初は下っ端なので全部やってみろと言われて、やりながら覚えました。5、 6回、1人で1頭解体すると慣れてきます。もちろん、いかに綺麗にするか、というところはいくらでもこだわれますが。いくつかのナイフを使い分けています。山小屋で解体するときは正解の方法があるわけでもなくて、カッターを使うおじいちゃんもいたりします(笑)。私は初めから解体の場面にショックはなかったですが、体験で参加してくださる人で血に弱い人はいますね。男性の方が弱いんじゃないでしょうか。こんなに綺麗なのかと感動する人もいます。
――解体には感動があるのですね。
江口:冬場は解体で湯気が出る。そのあたたかさで感動する人も多いです。季節によっては、イノシシの中に“腹子”といって子どもが入っていたこともあります。8匹ぐらい。こんなに繁殖するならそりゃ増えてしまうな、という思いと、育つ子を殺めるという意味では悲しさもあります。山小屋には“山神様”と呼んでいる神棚があって、お酒をお供えして、猟の後には毎回手を合わせます。命をいただいているんだ、という気持ちで。狩猟文化の一つですよね。お肉をスーパーで買っていてもこんな気持ちにはなったことがなかった。価値ある体験だと思います。

