◆SNSでアンチコメントが来る
――狩猟文化は理解されないこともあると聞きます。江口:SNSで発信していると、動物を殺すとは何ぞや、肉ならスーパーに売ってるだろう、みたいなコメントが来ることもありますけど、いや、そのスーパーの肉も誰かが殺してるんじゃない?って思います。やっぱり理解できる人、できない人がいるのはわかっているので、気にしない。そういう人を説得しようと思っても無理なんですよね。
一方で、地元には地元の事情があってわかってくれている人がいる。畑の被害は度々聞きます。サツマイモを明日掘ろうと思ってたのに全部食われた、とか。悲しい顔を見るのはつらいですね。罠かけてくれ、見回ってくれ、って頼まれることもあります。
――人の生活エリアにまで来てしまうと困りますね。
江口:そもそも住む人がいなくなっちゃったら、それこそ獣の村になってしまう。猟をする人もですが、住む人も増えてほしいですね。興味のある人にどんどん来てほしいです。去年は狩猟体験に70組来てくれて、実際に狩猟免許を取った人が3人います。3人とも30代で、東京で会社勤めをしている男性です。そのうちの1人はこっちに家を見つけて2拠点生活を始めていて、希望があるなと思っています。せっかくだったらここで長く培われてきた狩猟文化を守りたいですね。
――希望のあるお話ですね。一方、収入面でいうと実際、狩猟の仕事で生計を立てられるほどの収入は得にくいと聞きます。
江口:猟師だけで生計を立てている人はほとんどいないんじゃないですかね。県内でも1人いるかいないか。獲ったシカを運ぶのは、1人でできる仕事じゃないですし。有害駆除については1頭あたりいくらと決まっていて、大月市だと1万5,000円です。自治体の予算の範囲内でお金は出ますが、上限に達したらあとはいくら獲っても報奨金はナシです。
頂いた報奨金はほとんど分会のお金という扱いにして、集まりの食事代や備品代などになりますね。日当が出るわけじゃないです。設備があって仲間がいて、商品化などを進めて少しずつ収益化できれば、というところですね。この春から施設も稼働して、今まで獲っても活用方法がなくてほぼ捨てるしかなかったシカを加工できるようになるので、大月の特産品にしていくこともできるのではないかと。狩猟を通して大月を知ってもらいたいですね。
食肉だけでなく、毛皮や骨など、アイデアはいろいろ浮かんでいて。例えばこのスカルも新宿のバーで飾ってくれているところがあります。不動産の仕事をしてきた経験を活かして、移住相談や空き家の活用、紹介などもしていきたいですね。空き家を持っていても貸さない人が多いのですが、家を活かす意味でもお手伝いできればなと思っています。
◆生きてるって感じがする
――江口さんにとって、ここで生活していて楽しいことは何ですか?江口:ここでは犬とのびのび過ごせます。犬と遊んでいるときが一番楽しいですね。犬が楽しいときは人間も楽しいんじゃないかと思っていて。美味しいものも一緒に分かち合えますし。犬あっての猟ですから、私にとって相棒です。
――都会では味わえない生活ですね。
江口:それでいうと、うちに地元の人が20人以上集まってわいわい宴会することもあるんですけど、東京ではそういうのなかったなって。仲良くしてもらってありがたいなと思います。逆に言えば、つながりがないと、仕事していくのも難しいですよね。最初に空き家を探してくれた猟師のおじいちゃんが顔が広くて、その人の知り合いですっていうと話が通りやすくて助かりました。
――おいくつぐらいの方なんでしょうか。
江口:たぶん76歳ぐらい。皆さん、70代とか80代。その下がいないんですよ。このおじいちゃんたちが山のことを本当に全部知っている。今は元気ですが、あとどれぐらい一緒に山に入れるかわからないので、彼らが動ける間に全部吸収したい、教わりたいという思いが強いです。
――まだまだ教えていただきたいことがあるのですね。
江口:正直、食べているお肉がどこからきているか、なんて考えたこともなかった。関心がなかった。でもこっちに来たら、自分で野菜を作って食べている人が多いし、春はキノコも採るしタケノコも掘る。おじいちゃんたちと山に入れば、この草食べられるんだよ、山菜がここでとれるよ、とかいろいろ教えてくれて。猟でも、あそこの〇〇の木に隠れろ、とか言うんですけど、自分は全然わからなくて。何にも知らなかったことが恥ずかしくなりました。
もともと福島の田舎の生まれで、田舎に暮らすことに抵抗はないんですけど、自分は自然に関心がなかったんだ、ということに気がついて。自然と暮らすっていうのが本来、人間のあるべき姿なんじゃないかって思うようになりました。その延長線上に、狩猟もあって、お肉も自然の中からいただくことができる。
東京で生活していた頃とは全然違って、こっちの方が楽しいじゃんって。生きてるって感じがします。東京では適当にコンビニとかで食べたいものを買って、夜は友達と飲みに行く生活が当たり前でした。それはそれで楽しかったんですけど、大切にすることの優先順位が変わってしまって。東京にしがみつかなくていいな、こっちで楽しく暮らした方が自分の喜びになるな、っていう風に思っちゃったんですよね。


<取材・文/平野ジュンココ>
【平野ジュンココ】
山梨県在住のライター。インタビューが好き。歌を人生の支えとしている。

