
孫に囲まれる老後は、多くの人にとって幸せな夢のひとつです。自分の子供を育てたのは20代・30代の働き盛りのとき。日々の生活に追われ、子供を叱る場面も少なくなく、自分が深い愛情を注いだ記憶が薄い人も多いはず。 しかし孫の場合、子育ての責任があまり重くないせいか、愛情だけで関わることができるようになります。孫の学費を出してあげたい、ランドセルは買ってあげたい、孫が結婚するときまで生きていられたらお祝いをあげたい、できることならひ孫が生まれたらまたお金をあげたい……など、孫のためならお金は惜しくないと感じる人も多いのです。しかし、その愛情からの支援が、子世代からの「お金の無心」へと変わってしまったら? 「孫のためなら親はいくらでもお金を出すだろう」という子世代の甘えが常態化したら、孫とのかかわりを見直すべきなのかもしれません。年金生活のなかで“孫費用”に悩み、下した決断の先に待っていた現実とは――。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
4人の孫が「ばあば」と慕ってくれる日々
<事例>
祖母Kさん 72歳 年金生活者 夫が残した貯蓄と生命保険金計2,800万円
息子Rさん 43歳 美容師
孫5人
息子の妻Uさん 40歳 美容師 現在6人目を妊娠中
東京都内の古い賃貸マンションで一人暮らしをする母Kさん。夫とは10年前に死別しました。月の年金収入は遺族年金を含めておよそ13万円。家賃と光熱費、食費を差し引くと、手元に残るのは数千円という月もあります。
それでもKさんの表情が明るいのは、ひとり息子のRさんの家族の存在があるからです。息子夫婦には5人の子供がいます。全員男の子。上から小学5年生、3年生、1年生、そして3歳、1歳。いまどきめずらしい子沢山の家庭なのです。「ひとりっ子だったから、子どもが多い家族が憧れだったんだよね」と息子Rさんは笑います。
母Kさんは週に1度、孫に会うために息子夫婦の家へ通っていました。行けば「ばあば、ばあば」と5人の孫が飛びついてきます。その瞬間は怖いほど幸せなのです。
自分の子供を育てていたときは、若く未熟だったせいかいつも切羽詰まっていて、幸せを感じる余裕がありませんでした。子供がいたずらをするたびにヒステリックになるのが当たり前。しかし、それが孫となるとなぜこんなに無条件に可愛いのだろうと、不思議な幸福感に包まれています。
5人も男の子がいると、家の中は散らかり放題。壁に穴まで開いています。母Kさんは毎週喜んで掃除をします。それもまた幸せなのです。孫たちにお小遣いをあげて、いつまでも成長を見守ることができたら……と毎日願っていました。孫のためなら自分を犠牲にしてでもお金を支援したい気持ちです。
しかしその孫への思いは、息子夫婦からのお金の無心へと変化していきました。
美容師の腕は一流なのに、商売の才能は皆無の息子
息子のRさんは美容師です。専門学校を出てから都内の有名サロンで修業を積み、腕を磨きました。その技術は評判を呼び、毎日指名で忙しい日々。次第に客層は富裕層の女性へと移っていき、客単価は3万円~5万円。人当たりもよく客からは非常に好かれていたといいます。
息子Rさんは30歳になるのを機に独立し、違うサロンで働いていた妻のUさんと一緒に、南青山にある元美容室の居抜き物件を借りて、小さなプライベートサロンを構えました。10坪の広さに、セット2台、シャンプー台2台というこぢんまりした店ですが、富裕層の女性を迎えるために高級な内装とプライベート感にこだわりました。
開業資金は高額でした。個室間の強い店舗への改装費用をはじめ、集客ポータルサイトへの掲載費、チラシの印刷代、元の顧客へのDM、Rさん夫婦の当面の生活費……。問題は、母Kさんがその開業資金の大半を支援したということ。息子夫婦は雇われ時代にクレジットカードの返済を頻繁に滞納していたため、金融機関からの融資が受けられなかったのです。
「美容師として一流になったといっても、美容師はやはり所得が高くない仕事。雇われていればなおさらです。自分の店を持ってオーナーとして働けば所得もよくなっていくだろうと、開業資金を出しました」と母Kさん。亡くなった夫が残した貯蓄と生命保険金の一部を使いました。
開業した当初は、もとの顧客が引き続き訪れていて、繁盛していました。従来どおりに客単価は3万円以上のまま。1日2人の来店で売り上げは5万円ほど。25日稼働して月の売上額は125万円になる計算です。家賃40万円を支払い、材料費10万円、光熱費3万円、決済手数料4万円、保険などの雑費8万円を差し引くと、残りは60万円。
個人事業であるため60万円を家に持ち帰ることができるはずでした。客数が1日あたり1人増えただけで、もっと手残りが増えるはずです。
ところが息子Rさんの店は、3年目に廃業。原因は、夫婦の絶望的な金銭管理の下手さでした。
