◆医療行為でも温度差…仕事を任されなくなり退職へ
違和感は日常業務のさまざまな場面で繰り返された。利用者の入浴介助の際、傷の確認を依頼したときも、新人は戸惑った様子を見せたという。岸本さんは「Aさんの臀部に気になる傷があるので、入浴介助のときに確認してください」と伝えると、新人は驚いたように「私が入浴介助に入るんですか?」と聞き返した。
さらに、血液検査と抗原検査のオーダーが入った際にも、現場の空気は重くなった。
「えー、私がやるんですか? このシリンジ(液体や気体を吸い込み、押し出すための筒状の器具)と針、使ったことないメーカーなんですよ!」
その後も理由を並べ、「高齢者が動くと危ないからやりたくない」といった発言もあった。結局、他部署の看護師が対応することになったそうだ。
「それからは、誰も仕事を頼まなくなりました。医療行為も別部署にお願いするようになって、本人は除菌作業ばかりしていました」
看護師の給与が支払われている一方で、担っている業務は看護とは言い難いものになっていった。周囲との距離も広がり、新人は入職から約1ヶ月半で退職したという。
「今思えば、“看護だけをしたい”という気持ちが強かったんだと思います。でも、この現場ではそれだけでは通用しませんでした」
◆「ナースコールを押しても来ない」患者の声で発覚
北本恵さん(仮名・30代)が働く、急性期病院(病気やけがの直後の容態が急激に変化する患者に対し、24時間体制で高度・集中治療や手術を行う医療機関)でも、印象に残っている新人看護師がいた。配属当初は問題なく見えていたが、しばらくすると患者から気になる声が届くようになったという。
「ナースコールを押しても来てくれないとか、『確認します』と言ったまま戻ってこないという話が出るようになりました」
同じ頃、看護師同士でも違和感が共有されていった。引き継いだ直後の患者が発熱していたり、点滴が詰まったまま放置されていたり、排泄ケアが不十分だったりと、小さなズレが重なっていたのだ。
「私は『業務量が多すぎるのかな』『一人で抱え込んでいるのかな』と思っていました」
そこで病棟ではミーティングを開き、フォロー体制を強化。他の看護師がナースコールに対応したり、ケアを一緒に行ったりすることで、新人の負担を減らそうとしたという。
「そのときは、サポートが足りていなかったのかもしれない……という反省もありました」

