150万円がLINEで消えた日――「背筋が冷たくなりました」
転機となったのは、ある出来事でした。
健太さんが小中高時代の友人の結婚披露宴に出席した際、旧友の一人が「起業する」と話し始めました。宴の翌日にはLINEグループが立ち上がり、「みんなで出資しよう」という流れに。
「みんな少しずつ出すみたいだから、自分も少し出資してみるよ」
そう聞いていた山田さんも、そのときは深く気にしていませんでした。せいぜい数万円、起業のお祝い金程度だろうと思っていたからです。
しかし後になってわかったのは、まとまった金額――約150万円を出資していたのは、健太さんだけだったという事実でした。
「金額を聞いたとき、正直、背筋が冷たくなりました」
それ以上に驚いたのは、その意思決定の軽さでした。事業の詳しい説明を聞いたり、契約書を取り交わしたりすることもなく、LINEのやり取りだけで150万円を送金していたといいます。
「小学校からの仲間だし、それで十分でしょ」と言う健太さんに、山田さんは言葉を失いました。
その150万円は、健太さんが自分で稼いだお金ではなく、山田さんが生活費として渡してきた中から出したものでした。結局、友人の事業はうまくいかず、資金は戻ってきていません。
「うちにお金がなければ、この子の生き方は違ったのでは」
山田さんの中に不安がなかったわけではありません。アルバイトが長く続かない状況を見ながら、「このままで大丈夫なのだろうか」という思いは、以前から心のどこかにありました。
ただ、生活は成り立っている。表立った問題も起きていない。そう自分に言い聞かせることで、深く考えないようにしていた面もあったといいます。
しかし、この出来事をきっかけに、その不安を見過ごすことができなくなりました。
「いずれ、まとまったお金や資産を引き継いだときに、この子は守っていけるのだろうか」
自分たちがいなくなった後、数千万円、あるいは不動産という形で資産を手にしたとき、同じような判断をしてしまうのではないか――。
そして、もう一つ。
「もし、うちにこれだけの資産がなかったら、この子は、もう少し違う生き方をしていたのではないかと思うことがあるんです」
