M&A仲介業者の不作為により不動産価格が問題となった事例
ある中小企業のM&Aでは、対象会社が複数の事業用不動産を保有していました。しかし、M&A交渉においては、不動産について正式な不動産鑑定評価は実施されず、帳簿価格や固定資産税評価額を前提としてM&A価格が協議されていました。
売主としては、対象会社の価値を中心にM&A価格が形成されていると認識していましたが、M&A成立後、改めて不動産評価を確認した結果、一部不動産について実際の時価が想定を大きく上回る可能性が判明しました。特に、立地条件や再開発可能性などが考慮され、不動産価値が数億円単位で増加する可能性が指摘されました。
その後、売主は、M&A仲介業者が不動産価値を十分に調査しないままM&Aを成立させたことに強い不満を抱くこととなりました。売主によれば、M&A仲介業者は、「正式な不動産鑑定評価を実施するとM&A価格が上昇し、買主との交渉が難航する可能性がある」と説明し、不動産鑑定評価の実施に消極的であったとされました。
一方、M&A仲介業者としては、早期成約を優先したのであり、不動産価値について最終的に判断するのは当事者自身であると主張しました。その結果、売主は、「本来より低いM&A価格で会社を売却させられた」と感じ、M&A仲介業者との間で深刻な対立が生じることとなりました。
このように、中小企業のM&Aでは、M&A仲介業者がM&A成立を優先するあまり、重要資産の十分な価値検証が行われないままM&Aが成立し、後になって重大なM&Aトラブルへ発展することがあります。
まとめ
中小企業のM&Aでは、M&A仲介業者が重要な役割を果たす一方で、両手取引による利益相反構造や、「中立的立場」という説明と実際の契約構造との乖離が存在します。
また、情報整理やリスク説明が不十分なまま交渉が進行した場合、認識の相違や責任範囲を巡るM&Aトラブルへ発展することがあります。
そのため、M&Aにおいては、M&A仲介業者の役割と限界を正確に理解した上で、必要に応じて弁護士を関与させながら、独立した立場でリスク検討を行うことが実務上重要となります。
弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士
土屋 勝裕
