SNSマウントが生んだ束の間の万能感
投資を始めて数ヵ月、証券会社の運用画面はプラスを示し続けました。
毎朝、アプリを開くのが習慣になりました。含み益が増えるたびに、小さな優越感が自分のプライドを持ちあげてくれるのです。NISA自慢をひけらかす元同僚には、「ああ、おまえは優秀だな」とお世辞をいい、内心では「こちらはあっというまに100万円超えだがな」と嘲笑っていました。「お前ら凡人と違って、俺は頭の出来が違うんだ」というわけです。
SNSに溢れるいわゆる「株クラ」の投稿を眺めても、誰もが自分より無能に思えてなりません。「偉そうに講釈垂れている割には、大した結果を出していないじゃないか」と一人、画面に向かってせせら笑う日々。「資産運用とはこういうものか。難しく考えすぎていた。持っていれば増える。シンプルな話だ」Aさんはそう確信しはじめていました。
ビギナーズラックで暴れる迷惑老人
投資を始めて3ヵ月が経ったころ、Aさんの行動に異変が生じます。
それまで小馬鹿にしながら見ていたSNSに、気づけば毎日5時間以上を費やすようになっていました。タイムラインを埋める株クラの言葉を読んでは、見下すようなリプライを送りつけ、マウントを取ります。やがて、自らも発信者として動き出しました。
SNSの世界では、極端な主張や強い断言、あるいは他者を叩き、誰かを持ち上げるような投稿のほうが、耳目を集めやすいものです。Aさんは自身の運用成績を誇示し、それが己の知性の賜物であると露骨にアピールするようになっていきました。ネット記事を引用してきては筆者を個人攻撃したり、経済評論家の投稿を印象して「経済がわかっていない経済評論家w」などと悪態をついたりを繰り返したのです。
誰かを叩けば叩くほど、フォロワーが増えいきました。界隈の人々がAさんの優秀さを理解しているからだと信じ込みます。「自分以外は全員無能」そんな言葉まで平気でネット上に放流していました。
しかしある日を境に、風向きが変わってしまいます。
「キャラとしては面白いけど、こんなおっさん、友達いないだろ」あるユーザーがAさんの投稿を引用したこの呟きが、数十万インプレッションという大バズりを引き起こしたのです。これをきっかけに、Aさんがなにをいっても冷笑と激しい批判が殺到する事態へと一変しました。
「老後に投資を始めて勘違いしたおじいちゃん」
「朝5時から他人を誹謗する老人は寂しい」
「ビギナーズラックで威張るとか」
流れてくる辛辣な言葉の数々に、Aさんは怒りが湧いてきました。怒りに任せた発言は過激化するばかりで、ついにはプラットフォーム側から表示制限されます。閲覧数はゼロに近くなってしまいました。
