ラブホテルでの経験なんてせいぜい日々の清掃業務だけだろうと思われがちだが、意外と面倒な場面も多い。たとえば泥酔客の対処、部屋前でのコスプレなどの貸し出し、“オトナのお店”からの電話対応など、細々とした業務がけっこうある。
とはいえ、都内でも屈指の回転率の悪さを誇るであろうラブホテルだったので、平日のほとんどはお菓子を食べながら昼ドラをぼんやり見ていれば時間が過ぎた。ただ、かように楽な環境にもかかわらず従業員はほとんど定着せず、一部の古株社員を除けば僕が働き出してから退職するまでの2年間で残っていた人間はひとりもいなかった。はじめは、なぜ人がやめるのか理解できなかったが、段々とここにいてはいけないと考えるようになり、結局僕自身も退職に至った。

◆アメニティはまだしも、家電を盗む客が
ラブホテルでは客室内から日々様々なものがなくなるが、実をいうと半分はなくなってもいいものである。たとえば備え付けの避妊具やお茶のパック、シャンプー、ヘアブラシや歯ブラシなんかはいくらでも替えのあるものだから、たとえ全部持って帰られても「ケチな客だなあ」ぐらいにしか感じない。だが、これが電気ケトルやドライヤー、テレビだったらどうだろう。そもそもそんなもの盗むやつなんていないだろうと疑うかもしれないが、それら家電類を盗む客は確実に存在する。
◆徐々にエスカレートする良客の所業
尚子(仮名)は一人でラブホテルを満喫する女性客だった。30代前半くらいで容姿端麗。一人で定期的に来る女性を不思議に感じていたものの、散らかすわけでもなく「お願いします」と会計をし、「ありがとうございました」と挨拶して帰る良客だったせいか、使った後の部屋から必ず何かがなくなっているのに気が付くまで1年ほどを要した。最初は備え付けのアメニティ類がない程度だったが、最終的には“とんでもないもの”を持ち出そうとしていたところを僕らが捕まえた。その手口を詳しく書いていこう。

