◆不思議なタイミングで来ることが多かった
あまり知られていないことだと思うが、ラブホテルの空き部屋はフロント側で制御ができる。僕の勤務先では最上階の広い部屋から順々にパネルに表示させて、安い1階の部屋を売るのは最後だった。流行り病の影響で閑散としたラブホの客単価を上げるためには仕方がなかったが、客を騙しているようで心苦しかった。そんなシステムなので閑散とした日には最上階の部屋しか開いていないし、来客の多い土日を除けば1階の部屋が空くのは近隣の“オトナのお店”が割引イベントを打っている時だけだった。尚子は閑散とした平日には現れず、必ず前述したような回転率の高い日にだけ姿を見せた。
土日はともかく、“オトナのお店”のイベント日にもかなりの確率で来店していたので、偶然だとは思いつつ半年も経つとみんなで「いつも忙しい日に来るね」などと話していた。それが偶然ではないとわかったのは、ホテルからほど近くの一戸建てに住んでいて、窓からラブホを覗いているのを別のスタッフが発見したからだ。
でも、混んでいる日を狙ってやってくる客なんていようもないので、最初は尚子がカメラや盗聴器を仕掛けているのではないかと疑ったが、いくら探してもそれらは見当たらなかった。そうして部屋を注意深く見ていて初めて、備品の灰皿が行方不明なことに気が付いた。
それから何度か使った後の部屋を観察すると、灰皿がもう一度なくなり、大晦日には電気ケトルが消えた。年始になってから一度手提げバッグの中身を見せてもらったが何も入っておらず、首をかしげながら清掃に向かうと洗面台下の収納にしまってあったトイレットペーパー数ロールとティッシュペーパー数箱がなくなっていた。
入れ忘れでなかった可能性もあるが、クレームに直結するため備品を切らさないのはごく自然に意識してきたことだったから、僕らは釈然としない気持ちだった。だが、いつ荷物を見せてもらっても物証がないのだから仕方がない。それからしばらくの間、もやもやしたままフロントを立ち去る後ろ姿を何度も見送った。
◆テレビがない。なんと尚子が…
どれだけ疑われても意に介さず尚子は来店を続けた。出禁も考えた。しかし、なくなる備品代を考えても3時間彼女がいた方が金になるからと社長は出禁にはしないように僕らに言った。僕らはもやもやしっぱなしだったが、電気ケトルやドライヤーは安物なので隣町のドンキで買ってきてしまえばいいと若干諦めていた。そんな週末、いつものように1階の部屋だけが空いている瞬間を見計らってやってきた。
「今日は何がなくなりますかね」などと軽口を叩いていたが、退室してフロントをあとにした時、僕らは青ざめた。テレビ台の上にあるはずのテレビがないのだ。急いで建物を出て尚子を追いかけると、使っていた部屋の窓の裏からテレビを運ぼうとしていた。
きっと今までも窓から備品を外に出し、それを外で拾って帰っていたのだろう。1階の部屋にやたらこだわるのも納得である。一応外にも防犯カメラはあるものの、そこまでは映らないし窓を閉めてしまえば外からの音も聞こえないため、僕らは気が付かなかった。
尚子は、その場で僕が呼んだ社長に連れていかれ、盗んだ備品は段ボールに綺麗に詰められた状態で返却された。

