◆50歳目前、それでも歌舞伎町に立ち続ける

伯爵は少し表情を変えた。
「正直、頭の中では毎日、天使と悪魔が戦ってます」
悪魔はこう囁く。
「もう引退した方が楽だろ」
一方で天使は言う。
「まだ終わるな」
その声は今も毎日聞こえる。
そして最近、大きな出来事があった。
約20年一緒に働いてきた後輩が亡くなったのだ。30代後半だった。突然の別れだった。
「本当にいい後輩だったんです」
『ザ・ノンフィクション』にも登場したその後輩は、売上よりも人望で愛された人物だった。
「ノンフィクションに出る前、本当にダメだった俺にダメ出ししてくれたんですよ」
13歳年下だった。だが誰よりも信頼していた。社員旅行で沖縄へ行った時、一緒にツーリングした思い出が今も残っている。
「俺は若い頃、嫌われるキャラだった。でもあいつは誰からも好かれるタイプだった」
最後の別れには大勢の人が集まった。それが彼の人生を物語っていた。
「この子の分まで生きたいんです」
伯爵は静かにそう言った。
歌舞伎町について尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「歌舞伎町は世界で一番嫌いな街です(笑)」
そして少し間を置いて続ける。
「でも、一番感謝してる街でもあります」
夢も見た。
挫折も味わった。
楽しみも悲しみもあった。
人生が変わった場所だった。
だから、もう少しだけこの街で足掻いてみたいのだ。人生の半分をホストに捧げてきた。50歳はゴールではない。次の挑戦のスタートだ。“高齢ホスト”。そう呼ばれることもある。だが伯爵は、終わった人ではなかった。
時代が変われば、自分も変わる。
若さではなく経験で戦う。
TikTokにも挑戦する。
歌も歌う。
49歳になった今も、歌舞伎町のネオンの下で生き残ろうとしている。その姿は、かつて『ザ・ノンフィクション』で映し出された男の“その後”ではなく、今なお続いている物語そのものだった。
<取材・文/櫻麗(おうれい)>
【櫻麗(おうれい)】
新潟県出身。フリー記者。池袋のスナックでチーママとして働きながら脚本家を志すも挫折。業界新聞の記者、自治体の広報誌などの制作ディレクターを経て独立。現在は歌舞伎町ホストのSNS運用ほか、アングラ、夜職、歌舞伎町カルチャーを主な取材領域に記者として活動中。表には出にくい人間模様を追い続けている。猫と過ごす時間が至福 X:ohreindb

