◆薬に頼らず断酒に挑戦することに
ただ、断酒は意思の力だけでどうにかなるものではない。一般的には、飲酒欲求を軽減する断酒補助薬や再飲酒を防ぐ薬、手の震えや不安、イライラ、不眠などの離脱症状を緩和する薬が、医師の管理下で使用されることもある。だが、武智はそれらに頼らず、自力で乗り切ろうとした。
「酒を飲まなくなると、手足や体が震えるだけではなく、ずっとイライラして不安になります。それに、3日3晩ほとんど眠れなかったので、血流が悪くなっていたのか、顔がパンパンにむくんで、真っ赤に腫れ上がったような状態になっていましたね」
「大袈裟では?」と思われるかもしれない。しかし、アルコールは、急に体内から抜くと脳や体がその変化に適応できず、さまざまな離脱症状を引き起こすことがある。
そして、多くのアルコール依存症患者は、その離脱症状に耐えられず再飲酒してしまう。それを気力だけで乗り切ろうとしたのだから、その精神力は人並み外れている。
「ひたすら我慢でしたね。ようやく、4時間寝られたときも、寝汗なのか何なのか分かりませんが、起きたら『シャワーを浴びて体を拭かずに出てきたんか』というぐらい汗びっしょりでした」
◆YouTubeで自身の状況を包み隠さず公開
その精神力を支えていたのは、心のどこかにあった「酒をやめたい」という思いだった。
「上沼さんの一件があって飲酒量が増えた時も、ネタ番組で過呼吸になりながら漫才した時も、頓服で症状を抑えながら劇場で漫才していた時も、『この生活が一生続くんか』と、ずっと思っていたんです。過呼吸への恐怖を抱えながら、漫才を楽しめなくなっていることが嫌だった。それでも酒はやめられなかった。でも、ようやく『ここでやめなかったら、もう廃人になるまで飲むんやろうな』と思えたんです」
断酒開始と同時に始めたのがYouTubeだった。毎日の禁酒記録では、離脱症状や睡眠時間、不安、飲酒欲求をすべて公開した。
「昔から酒を飲んで傍若無人に振る舞っていたので、アンチがめちゃくちゃいるんですよ。だから、個人のYouTubeチャンネルを始めた時は、ボロカスに書かれることも覚悟していました。でも、いざ始めてみたら圧倒的に応援の声のほうが多くて、びっくりしましたね。『こんなに応援されることをしているんや』ということを痛感しました。みんなのコメントを見ていると、『もう裏切るわけにはいかない』と思うようになるんです」
薬に頼らない武智の禁酒生活は見ていて不安になる。筆者は飲酒欲求を軽減するレグテクトやベンゾジアゼピン系抗不安薬であるロラゼパム、そしてデエビゴなど大量の薬を服用したため、長期間飲酒欲求はなかった。おそらく、それらがなかったら禁酒は失敗しただろう。というのも、飲酒欲求は突然襲ってくるからだ。
「やっぱり、アップダウンが激しい時が一番危ないですね。この間、『アメトーーク!』の収録に行かせてもらったのですが、全然活躍できなかったんですよ。帰りに後輩とご飯に行った時も、『もっと前に出ないとダメですよ!』と怒られてしまいました。そして、夜中の3時くらいにホテルへ戻り、一人で椅子に座った時に『俺、何しに東京まで来たんやろう……』と思ってしまったんです。その時、強烈な飲酒欲求が湧き上がってきました」
◆断酒から7カ月も「克服はしていない」

「例えば家族や恋人に『酒をやめてくれ』と言われても、きっとやめられないんです。まさに、僕がそうでした。健康診断の数値も、酒をやめる決定的な理由にはなりませんでした。それでも、酒をやめるか、やめないかを決めるのは自分自身です。僕のように酒で苦しんでいる人も、最後は自分が今のままで生きたいのか、それとも変わりたいのか、本気で考えてみてほしいと思います」
20年以上、自分を苦しめるように酒を飲み続けた男は、今も毎日、自らの依存と向き合っている。酒をやめたことで人生が劇的に好転したわけではない。不安もある。眠れない夜もある。飲みたくなる日もある。
それでも武智は今日も酒のない夜を乗り越えようとしている。
<取材・文/千駄木雄大>
―[今日もなにかに依存中]―
【千駄木雄大】
編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「ARBAN」や「ギター・マガジン」(リットーミュージック)などで執筆活動中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)がある

