東京出身の看護師Akiさん(42歳)が「おうち」と呼ぶのは、キャンピングカー(キャラバン)だ。彼女は派遣先のオーストラリア各地の医療現場を渡り歩き、仕事先がそのまま生活圏となる暮らしを送っている。

いわば、「住所不定ナース」といったところか。
一見すると、旅と仕事がシームレスに混ざり合う自由なライフスタイルだ。ただ、この暮らしをもう少し覗いていくと、「自由」という言葉だけでは回収できない現実と彼女の価値観が見えてくる。
◆オーストラリアで「住所不定ナース」になったきっかけ
海外生活に憧れたきっかけは拍子抜けするほど「普通」なものだった。「もともと、洋楽好きの姉、洋画好きの母の影響で外国ってかっこいい!というイメージがあったんです」
当時、東京で看護師として勤務していた彼女はワーキングホリデーの年齢期限が迫ってきた29歳の時にオーストラリアに渡った。ワーホリ期間中、現地の生活に馴染み友人たちと築き上げた日々に、彼女は確かな手応えを感じていた。「私でも海外で生活ができた」。そう実感して一度は帰国したが、なぜか心は満たされなかった。
「ワーホリは、良くも悪くも『いいとこ取り』の期間。何かに深くコミットしなくても成立してしまう。帰国しても胸の奥がずっとウズウズモヤモヤしていました。このまま終わっていいのか、と。そんな時、ワーホリから大学進学を果たした友人を見て強烈に刺激を受けたんです」
「自分には無理だ」という思いと「今しかできない挑戦があるのではないか」という思い。後者が勝った瞬間、彼女は英語の学習に没頭し「オーストラリアで看護師」という新たな道へ本格的に舵を切った。
その後、オーストラリアの大学に進学し、キャンピングカー生活を共にするパートナーと出会うことになる。
◆キャンピングカー生活の始まり

「住んでみたら、楽しかったんです。お互いにこの不便さが全くストレスにならなかったんですよね。周りからは『普通の人は耐えられないんじゃない?』と心配されましたが、私たちは不思議とうまくいきました」
パートナーと常に同じ空間にいることは、ストレスにならないのか。そう聞くと、Akiさんは笑ってこう返した。
「距離は近いですね、物理的に(笑)。
イラっとすることはありますよ。なぜ片付けないのか。なぜ元に戻さないのか。なぜ置き場を覚えないのか。そこはずっと謎です」
ただ、それは家の広さに関係なくどこで暮らしても起きる普遍的な問題だと達観している様子だった。

