◆移動生活の裏側にある、地味で切実なインフラ事情

順調に見える生活の裏側には、トラブルもつきものだ。
「キャンピングカーの水道管が漏れたり、給湯器が真冬に壊れたり、窓が壊れて開かなくなったりと、不具合が立て続けに起きることもありました」
オーストラリアの田舎には「なんでも直すおじさん」のような人がいて、地元民の助けに支えられることもあるという。

Akiさんが暮らす車内には備え付けのトイレがあるが、一般的なトイレとは大きく異なる。
「便器の下に排泄物を溜めるカセットタンクが設置されていて、自分たちで処理する必要があります」
排泄物の処理は道路沿いやキャンプ場に設置された「ダンプポイント」と呼ばれる専用の廃棄場所で行う。これは決して気持ちの良い作業ではないが、キャンピングカー生活を送る上での「責任」だとAkiさんは語る。
◆毎回“はじめまして”の医療現場で働くということ

赴任先は小規模な病院が多く、8〜10ベッド程度のクリニックや、介護施設が併設された場所が中心。都市部とは異なり、田舎になると患者数もスタッフの数も少なくなる。
この生活の最大のメリットは、自分でスケジュールを管理できること。
「仕事も遊びも充実した『大人版ワーホリ』です。タスマニアの離島で働いた時は最高でしたね。休みの日は同じ派遣ナースたちとハイキングやBBQを楽しみました。自分の行きたい土地の希望を出すことも可能です」
デメリットも当然ある。毎回「はじめまして」の環境に飛び込む気疲れは小さくない。病院の物の場所も、その土地のルールも、すべてゼロからのスタート。
時には、僻地での勤務も経験する。車で6時間走っても隣町にたどり着かないような場所では、天候ひとつで陸の孤島と化す。
では、そうした環境にどうやって馴染んでいくのか。
Akiさんが大切にしているのは、患者やスタッフの「名前を呼ぶ」というシンプルな行為だ。
「まず相手の名前を呼んでから話す。それだけで距離が縮まるんです。もし忘れてしまったら、ごまかさずに正直に聞くようにしています」
こうした関わり方は、Akiさんにとってはごく自然な習慣だという。同業の看護師の中には「派遣ナースに対して抵抗感を表す現場もある」と言う人もいるそうだが、Akiさん自身はそのような雰囲気を強く感じたことはあまりないという。どの現場でも比較的スムーズに受け入れられている印象のほうが強いそう。彼女の明るい人柄や関わり方の丁寧さが空気を変えているのかもしれない。
また、オーストラリアの医療現場は基本的に分業制が敷かれており、都市部の病院では看護師は看護業務に集中できる環境が整っている。
「レントゲンの誘導はヘルパーさん、採血は検査技師が担当します。すごく合理的で、精神的な負担は日本よりかなり軽いですね」
一方で、僻地や小規模医療の現場では、看護師がキッチン業務を担うことも含め、職種の垣根を越えた小さなチームで現場を回すこともある。それもまた、僻地医療ならではの醍醐味のひとつだという。

