データだけでは経営判断できない――日本版EBPMが示す意思決定の本質

データだけでは経営判断できない――日本版EBPMが示す意思決定の本質

経営者は日々、数字を見ながら意思決定を行っています。売上高、利益率、顧客数、離職率――。企業経営においてデータは欠かせない判断材料です。しかし、現場では「数字は良いのに成果が出ない」「データを見ても答えが分からない」といった場面も少なくありません。実は、こうした悩みは政策立案の世界でも同様です。日本で進められているEBPM(証拠に基づく政策立案)の運用実態をたどると、データは意思決定を支える重要な材料ではあっても、それだけで正解を導き出せるわけではないことが見えてきます。日本のEBPMの実情について公認会計士の岸田康雄氏が解説します。

日本のEBPMは「科学」ではなく「マネジメント」

まずおさえておきたいのが、日本政府が推進する「EBPM三本の矢」です。ひと口にEBPMといっても、その役割は3つに分かれています。

第1の矢:経済財政再生計画におけるKPI(重要業績評価指標)の整備。
第2の矢:総務省などが主導する本格的な政策評価
第3の矢:各省庁が実施する「行政事業レビュー」

今回焦点を当てるのは、この第3の矢です。

「EBPM」とはEvidence-Based Policy Makingの頭文字を取ったもので、「証拠(エビデンス)に基づく政策立案」と訳されますが、ここでいうエビデンスには、「狭義」と「広義」の2種類が存在します。

狭義のEBPMとは、たとえば教育プログラムの効果を測る「RCT(ランダム化比較試験)」のように、因果関係を厳密に検証する手法のこと。

対して広義のEBPMとは、目標をKPIで管理し、PDCAを回すといった、実質的なマネジメント手法のことを指します。日本の行政事業レビューが担うのは、この広義のEBPMです。

EBPMというと、そのすべてが科学的な分析だと思われがちですが、実際は「管理の仕組み」として使われている部分が大きいのです。

実際に、内閣府の行政事業レビュー関連資料には、「行政事業レビューに厳密な因果分析を求めるのは無理がある」という冷静な記述があります。

つまり、第3の矢としてのEBPMは、なにが本当に効果的なのかを科学的に突き止める「実験室」ではなく、事業を効率よく管理するための「道具箱」として運用されているのが実情です。

政策の運命を握るのは、データよりも「専門家の直感」?

行政事業レビューの現場は、驚くほどアナログです。基本的には、役所が用意した資料に対し、外部の有識者が質問を投げかける「口頭でのやり取り」で進みます。

なぜデータに基づく分析ではなく、こうした“おしゃべり”が中心になるのでしょうか。その背景には、「公共政策の担当者に直接問いかければ、低コストで比較的容易に実態が把握できるはずだ」という、ある種の楽観的な思い込みがあります。

しかし、この「低コストな問答」が、ときに議論を本来の評価から脱線させます。

たとえば、若手船員の確保を目的とした助成金事業のレビューでは、話題がいつの間にか「日本の海運産業の構造」という大きなテーマに移り、船を1隻しか保有しない「一杯船主」が多い業界への不満が噴出しました。

そこでは、「補助金の存在が、非効率な事業を温存させるゾンビカンパニーやパラサイトカンパニーを生んでいるのではないか」といった、科学的データではない“個人の直感”による批判が飛び交いました。

客観的な数値目標の達成度よりも、その場にいる専門家の「grit(気骨)」のある意見が政策の運命を左右してしまうというのは、厳密なエビデンスを理想とする立場からすれば、極めて皮肉な構造といわざるを得ません。

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