
会社の利益が上がると役員報酬を増やしたくなりますが、給与を上げれば上げるほど個人の税金も増えてしまいます。多くの社長が目安としている「月100万円」役員報酬は、税負担のバランスを考慮した合理的なラインなのです。本記事では、税理士法人グランサーズ共同代表の黒瀧泰介氏が「役員報酬は月100万円が適している」と語る理由について解説します。
役員報酬は「月100万円」が合理的といえるワケ
役員報酬を決めるうえで重要なのは、「会社にお金を残して法人税を払う」と「個人で受け取って所得税を払う」のどちらがお得なのかという税負担のバランスを考えることです。
中小企業の法人税の実効税率は約34%です。一方、個人の所得税は収入が増えるほど税率が高くなる「超過累進税率」が採用されており、最高税率45%に住民税10%を合わせると最大55%も税金で持っていかれます。
ただし、所得が低いうちは個人の税率のほうが圧倒的に低いため、役員報酬として個人で受け取って税金を払ったほうがトータルでお得になります。
この「どちらの税率が安いか」の分岐点となるのが、個人の「課税所得900万円」というラインです。
課税所得が695万円〜899万9,000円までは、所得税23%+住民税10%で「税率33%」となり、法人税の34%より低くなります。しかし、課税所得が900万円〜1,799万9,000円の層になると「税率43%(所得税33%+住民税10%)」となり、法人税を上回ってしまいます。高い税率を払って個人で受け取るより、会社に利益を残して34%の法人税を払ったほうが全体の手元に残るお金は多くなるのです。
役員報酬を月100万円(年収1,200万円)に設定した場合、給与から給与所得控除や基礎控除などを差し引いたあとの「課税所得」は、たいていの場合899万9,000円の枠内に収まります。
「月100万円」は単にキリがいいだけでなく、税率が跳ね上がるボーダーラインを綺麗に回避できる金額であるため、お得といえるのです。もし月150万円などにすると確実に課税所得900万円を超えるため、法人税より高い税金を個人で払うことになります。
会社から個人へ無税・低税率でお金を移す「2つの方法」
「税金が高くなるから役員報酬は上げたくないけれど、個人の手元にはもっと資金がほしい」と思う社長もいるでしょう。この場合、国のルールに則って合法的に無税でお金を移す方法が2つあります。
1.出張手当の導入
会社で「出張旅費規程」というルールを作成すれば、実費の交通費や宿泊費とは別に「日当」として出張手当を支給できます。この出張手当は、会社側では全額経費として落とせるにもかかわらず、受け取る社長個人には所得税も住民税もかからず非課税になるというメリットがあります。
たとえば、日当と宿泊費で2万円支給し、実際の出費が1万円で済めば、差額の1万円は“非課税の臨時収入”となります。ただし、1回の金額は社会通念上妥当なラインにする必要があります。
2.役員退職金の活用
「役員退職金」は、税制面でかなり優遇されています。通常の給与とは分けて計算される「分離課税」であり、勤続年数に応じた「退職所得控除」という大きな非課税枠が使えます。さらに、非課税枠を超えた金額も半分にしてから税金を計算する「2分の1課税」という強力な特例があり、社会保険料もいっさいかかりません。
退職金の原資づくりとしては、「経営セーフティ共済」などを利用して法人の利益を圧縮しながら積み立てていくのが有効です。毎月20万円(年間240万円)、総額最大800万円まで全額会社の経費にしながら積み立てることができます。
ただし、実際にお金を使えるのは将来引退するタイミングとなります。したがって、いますぐ手元に自由に使えるお金が欲しい場合には多少税金が高くなっても役員報酬を増やして受け取るのが現実的な解決策といえます。
