アジア太平洋(APAC)が金需要の“新しい主役”に
アジア太平洋地域においては、規制変更や市場の取り組みが功を奏しており、個人投資家、機関投資家、公的セクターを問わず市場参入が広がっており、これまでのマクロ経済的な追い風に加え、より構造的な需要チャネルが形成されています。
年初来、アジア太平洋地域に籍を置く金ETFへの資金流入額は162億ドル(100トン)に達し、グローバルな金ETFへの純流入額の82%を占めています※31。当社は、今後数年間、これらの市場が構造的な需要をけん引すると予想しています。
中国…不動産不況の“代わりの安全資産”として金が選ばれている
規制改訂や市場動向の変化が、国内資産における金の役割を高めています。保険会社に1%を上限に金への投資を認める試験的取り組みが、機関投資家による金投資の後押しとなっており、今後拡大する余地もあります。
代替投資における実物資産が限られていることや、不動産市場の低迷が数年続いていることも、金需要を下支えしています。中国および香港に上場する金ETFには、年初来で97億ドル(58トン)の資金が流入しており、これはグローバルな純流入額の49%を占めています※32。
中央銀行においても準備資産の多様化の流れが需要を生んでおり、中国の投資家にとっては前向きな見通しを後押ししています。これと並行して、香港では、アクセス、流動性、および国境を跨ぐ連携が改善され、この地域への現物およびETFの資金流入を支えています。
インド…金人気が過熱し「経常赤字」を悪化させる構図に
金投資商品がより身近になるような政策変更が行われている一方、税制の簡素化により、金連動型商品の導入が普及してきています。
また同時に、インドの経常収支は無視できないほどひっ迫しつつあり、主に原油価格が上昇したことにより、対GDPの経常赤字は2026年度の0.9%の見通しから2027年度には2.3%に拡大すると予測されています。
国内における金への強い消費需要もこの赤字に拍車をかけており、ルピー安を招き、外貨準備を減少させる恐れがあります。ルピーへの下落圧力は顕著であり、今年は対ドルで約6%下落し、アジア主要通貨のなかで最も低調なパフォーマンスを記録するとともに、過去最安値まで下落しました。
金は、2025~26年度におけるインドの輸入の上位3位(約720億ドル)となるなか、インドの政策当局は金の輸入関税を2倍以上に引き上げ、またモディ首相も国民に対し少なくとも1年間は金の購入を控えるよう呼びかけています※33。
とはいえ、金需要の金融商品化に向けた取り組みは、中期的には引き続き追い風となります。公的年金では最大1%、私的年金では最大5%の金ETFへの投資を認めており、より構造的な需要の拡大につながる可能性があります。当社の試算によると、インドの公的年金制度が1%を配分したとすれば、金投資需要の約1%に相当する追加需要が生じる可能性があります※34。
こうした政策面の支援を受け、インド籍のETFには36億ドル(22トン)の資金が流入しており、これはグローバルな純流入額の18%に相当します※35。
日本は「円安×物価高」が金投資を後押し
日本…スタグフレーション的環境が“金の追い風”に
低い実質金利、財政動向、通貨安が、金の投資魅力を支えている状況に変わりはありません。日本銀行は2026年度の成長率見通しを1%から0.5%に下方修正した一方で、コアCPIを2.5~2.7%と予測しており※36、このスタグフレーション的な環境は、通常、現金や債券にとっては悪材料であるものの、金にとっては追い風となっています。
同時に、税制優遇措置により、個人投資家や資産運用会社における金投資への参加が広がっている一方、機関投資家の金への配分比率は依然として低水準、またはゼロ近辺にとどまっており、今後の上昇余地があることが窺えます。
金ETFや投資信託に対する認知度は高まっており、有望な投資手段として急速に普及しつつあるなかで、年初来の資金流入総額は50億ドル(34トン)に達しています※37。
シンガポール…アジアにおける「金投資のハブ」を目指す
2026年3月、シンガポールは政策変更および市場インフラ変革の取り組みを通じ、シンガポールをこの地域における金投資の集積地とするべく※38、その国際的な役割を強化するとともに、公的セクターによる関与の拡大を後押ししています。
以上みてきたとおり、政策が主導しながら、アジア太平洋地域全体で金の投資家層が拡大しています。投資アクセス環境の改善と投資家による採用の進展により、2026年には同地域がグローバル需要に占める割合が上昇し、より持続的で多様な需要構造を支えることになります。
[図表8]APAC地域に籍を置く金ETFは、堅調な需要と政策支援を背景に世界の同種商品をリード★8
年後半の金価格は「4,750〜5,500ドル」が基本シナリオ
基本シナリオ(確率70%):1オンス当たり4,750~5,500ドル
原油価格の高止まりや、FRBがより長期にわたり政策金利を据え置く可能性は金価格の上昇を抑制する要因となり得ます。しかし、構造的な要因や金融セクターによる保有比率の低さが、ETFや現物市場における継続的な戦略的投資を支えると考えられます。
強気シナリオ(確率15%):1オンス当たり5,500~6,250ドル
FRBが大胆な緩和に転じ、米ドルが複数年にわたる下落トレンドを再開すれば、イラン紛争前の状況と同様に、金価格が1オンス当たり6,000ドル台に戻る可能性が高まると考えられます。
弱気シナリオ(確率15%):1オンス当たり4,000~4,750ドル
原油価格の高騰ならびにFRBによる利上げが起これば、中国の投資家や中央銀行が買い手サイドに控えているとはいえ、金相場は1オンス当たり4,000ドルの水準で耐性を試す可能性があります。当社のゴールド戦略チームによる詳細な分析をご覧ください。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください。
Aakash Doshi(Head of Gold Strategy)、Mohamad Abukhalaf (Gold Strategist)、Diego Andrade(Senior Gold Strategist)、Robin Tsui, CPA, CAIA, CA(APAC Gold Strategist)、アーロン・チャン(ゴールド・ストラテジスト)
