
中小企業のM&Aでは、慎重な準備をして臨んでも、M&Aトラブルを完全に排除することはできません。しかし、リスクを理解して主体的に判断することで多くの問題は回避できます。M&Aを成功させるための重要なポイントを実例を交えながら解説します。※本記事は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士、土屋勝裕氏の書き下ろしです。
想定外のM&Aトラブルの完全予防は「実質的に不可能」なので…
中小企業のM&Aでは、どれほど慎重に準備を行ったとしても、想定外のM&Aトラブルが発生する可能性を完全に排除することはできません。デューデリジェンス、表明保証、価格調整条項、コベナンツ条項など、様々なリスク管理手法が存在するものの、実際には、M&A後に初めて顕在化する問題が少なくありません。
特に中小企業では、会計処理、労務管理、取引慣行、人間関係などが必ずしも形式的に整理されていないことも多く、資料上は把握できない問題が存在します。また、M&A後には経営環境や従業員の心理状態も変化するため、M&A前には想定していなかった事態が生じることがあります。
そのため、M&Aにおいて重要なのは、「すべてのM&Aトラブルをゼロにすること」ではなく、一定の想定外が生じ得ることを前提として、どこまでリスクを把握し、どのように対処するかを考えることにあります。
なぜ経営者はM&Aを学ばずに交渉の席に座るのか?
もっとも、中小企業の経営者の中には、M&Aについて十分に学習しないままM&A取引に入ってしまうケースも少なくありません。
その背景には、M&Aが人生で何度も経験する取引ではないことがあります。多くの経営者にとって、M&Aは一度限りの出来事であり、「専門家に任せればよい」と考えてしまうことがあります。
また、M&A仲介業者から「一般的な条件です」「通常どおり進めれば問題ありません」と説明されることで、M&A特有の法的リスクや利益相反構造について深く勉強・検討しないまま進行してしまうこともあります。
しかし、M&Aでは、株式譲渡契約書の内容、表明保証、役員退職慰労金、経営者保証、価格調整条項、コベナンツ条項など、多数の重要論点が存在します。これらを十分に理解しないまま意思決定を行った結果、後に重大なM&Aトラブルへ発展することがあります。
