取得価格0円…払い出しで終わらない税務上の連鎖
さらに、問題はそれだけではありませんでした。一般口座に払い出されたあとは、受け取る配当金も課税対象になります。「配当金で年金不足を補う」というTさんの戦略が、根幹から崩れてしまいました。
投資額1,000万円・配当利回り4%の場合、NISA口座での手取りは米国源泉徴収10%(4万円)を引いた36万円です。一般口座に払い出された金額に、さらに所得税と住民税が課税されます。
本来であれば、一般口座で受け取る配当金には「外国税額控除」という制度があり、確定申告を行うことで、米国で源泉徴収された税額の一部を日本の所得税・住民税から差し引くことができます。また、控除しきれなかった分は翌年以降3年間繰り越して控除することも可能です。
ただし、控除できる上限は所得税額と所得全体に占める国外所得(米国株の配当金)の割合によって決まります。そのため、リタイア後に年金収入が中心となり、所得税・住民税の負担が現役時代より小さくなると、外国税額控除による節税効果も小さくなる可能性があります。また、この制度を利用するには確定申告が必要となるため、手続きの手間もかかります。
今後、毎年この分だけ手取りが減る計算です。再びNISA口座で保有するには、一度売却して買い直すしかありません。
そしてTさんを最も驚かせたのが、一般口座に払い出されたあと、画面に表示された親株の取得価格が「0円」になっていたことです。
この表示を鵜呑みにして確定申告してしまうと、売却金額の全額が「利益」として計算されます。実際には購入時に相応の金額を支払っているにもかかわらずです。正しく申告するためには、自分で購入時の取得価格を調べ直し、正確な利益を計算した上で確定申告する必要があります。知らなければ、本来より多く税金を払うことになりかねません。
NISAから強制的に払い出され、非課税が消え、取得価格まで0円になる。「これほどの仕打ちがあるとは思わなかった……」と、Tさんは静かに怒り震えていました。
【CFPが解説】見落としていた「2つの落とし穴」
今回のケースにおいて、Tさんは新NISAでの個別株投資における「2つの落とし穴」を見落としていたといえます。
1. 手数料以外の条件の確認不足
ネット証券の比較記事の多くは、手数料・取扱銘柄数・使いやすさを中心に評価しています。しかし、スピンオフなどのコーポレートアクション発生時の口座の取り扱いについては、ほとんど触れていません。各社の公式FAQを直接確認しなければわからない情報が、実は投資戦略の根幹に関わることがあるのです。
2. 新NISAと旧NISAは同じという誤解
2024年から始まった新NISAは、旧NISAとは制度設計が異なります。旧NISAで問題なかった取り扱いが、新NISAでは変わっているケースがあります。「前と同じだろう」という思い込みで確認を怠ってしまったことが原因です。
なお、投資信託やETFでは、組み入れ銘柄にスピンオフが起きてもファンド内で処理されるため、今回のような問題は起きません。NISAで個別株投資をする場合にのみ、こうしたリスクが生じる点も覚えておいてください。
