税金を軽くし、低所得者には現金を給付…世界で広がる「給付付き税額控除」――日本版はどう設計されるのか【国際税務の専門家が解説】

税金を軽くし、低所得者には現金を給付…世界で広がる「給付付き税額控除」――日本版はどう設計されるのか【国際税務の専門家が解説】

各国の給付付き税額控除制度

(1)カナダ―消費税の逆進性を緩和する生活支援制度

カナダでは、1991年に連邦税として物品・サービス税(Goods and Services Tax:GST)が導入されました。日本の消費税と同様に消費に課税する制度ですが、州によっては州売上税(Provincial Sales Tax:PST)が課されるほか、連邦税と州税を一本化した統合売上税(Harmonized Sales Tax:HST)を採用している州もあります。そのため、消費税率は州によって異なり、全国一律ではありません。

給付付き税額控除は、このGSTが持つ逆進性を緩和するために導入されました。所得の低い世帯ほど消費税負担が重くなるという課題を、現金給付によって補う仕組みです。

2026年7月からは、従来の「GST・HSTクレジット」が「食品・生活必需品給付金(Canada Groceries and Essentials Benefits)」へ改組され、生活必需品価格の上昇に対応した低所得者支援制度として運用されています。給付対象は、原則として19歳以上の居住者であり、本人や家族の所得、配偶者の有無、扶養している子どもの人数などを基に支給額が決定されます。

カナダでは、社会保障番号(SIN)が納税者番号として利用されています。所得がある人は確定申告書の給付請求欄にチェックを入れることで申請できますが、所得がない人も給付を受けるためには所得税申告を行う必要があります。児童手当を受給している世帯については、別途申請をしなくても給付が受けられる仕組みとなっています。

これらの事務は、カナダ歳入庁(CRA)が一元的に管理しています。また、給付金は納税額と相殺されるのではなく、税額とは独立して支給される点も特徴です。カナダの制度は、比較的シンプルな給付制度であり、消費税負担を軽減するという目的が明確であることから、日本が参考にしやすい制度の一つといえるでしょう。

(2)米国―勤労を支援する給付付き税額控除

米国では、給付付き税額控除として代表的な制度が二つあります。一つは「勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit:EITC)」、もう一つは「児童税額控除(Child Tax Credit)」です。

EITCは1975年、フォード政権下で創設されました。目的は、中低所得者に課される社会保険料負担を軽減し、働く意欲を維持・促進することにあります。児童税額控除は1998年に導入され、子育て世帯への支援を目的としています。

EITCでは、給付を受けるためにさまざまな要件が設けられています。2025課税年度では、所得水準、児童数、資産所得、居住要件などが細かく規定されています。

たとえば、適格児童が3人以上いる夫婦合算申告の場合には総所得が6万8,675ドル未満であることが必要です。児童数が少なくなるほど所得上限も低くなり、児童がいない場合には1万9,104ドル未満となります。

また、資産所得は1万1,950ドル以下でなければならず、課税年度を通じて米国市民または居住外国人であること、社会保障番号(SSN)を保有していることなども条件となっています。

日本と異なる特徴として、米国では確定申告書(Form1040)に利子や配当などの資産所得も記載され、それらを含めた総所得(Adjusted Gross Income:AGI)によって給付額が判定されます。給付額の計算には、「Earned Income Credit Table」という一覧表が用いられます。この表では、所得金額、申告方法、児童数などを組み合わせて給付額を決定します。

一方で、この制度は非常に細かな計算が必要となるため、納税者にとっても税務当局にとっても手続きが複雑になりやすいという課題があります。EITCは「働く人を支援する制度」という性格が明確であり、単なる生活保護ではなく、就労を後押しする政策として高く評価されています。

このように、米国の給付付き税額控除は、所得再分配だけでなく、就労促進という政策目的を組み合わせている点に大きな特徴があります。

(3)英国―社会保障を一本化したユニバーサルクレジット

税制調査会が2012年に取り上げた諸外国の制度のなかで、その後最も大きく姿を変えたのが英国です。

現在、英国の給付制度の中心となっているのが、ユニバーサルクレジット(Universal Credit:UC)です。これは2012年、キャメロン政権下で法制化され、従来の複数の給付制度を一本化したものです。統合されたのは、①求職者手当、②雇用・サポート手当、③所得補償、④住宅手当、⑤勤労税額控除、⑥児童税額控除の6制度です。

従来は、それぞれ異なる制度として申請や支給が行われていましたが、UCでは一つの制度として一元的に管理されるようになりました。その結果、利用者は複数の窓口を利用する必要がなくなり、行政側も制度運営を効率化できるようになりました。

米国のEITCでは、税額控除と現金給付を組み合わせる仕組みが採られています。一方、英国では税額控除という形ではなく、必要な支援額を現金給付として支給する方式へ移行しています。つまり、税制を活用した支援というよりも、社会保障制度として所得保障を行う色彩が強い制度といえます。

2025年の自民党総裁選では、林芳正氏がこのUCを参考にした「日本版ユニバーサルクレジット構想」を提唱しました。複数の給付制度を一本化し、国民に分かりやすい制度へ再編するという考え方は、日本でも注目を集めています。

日本で英国型の制度を導入するには、多くの課題があります。現在、日本では児童手当や住民税非課税世帯への給付、生活保護、各種福祉給付など、制度ごとに担当省庁や自治体が異なっています。これらを一本化するには、行政の縦割りを見直す必要があるほか、既存制度との調整や法改正も避けて通れません。

英国には地方所得税が存在しない一方、日本では国税と地方税が密接に関係しています。税制そのものの前提条件が異なるため、英国の制度をそのまま導入することは現実的ではないでしょう。

日本版給付付き税額控除が抱える課題

給付付き税額控除は、低所得者支援や所得再分配を目的とした制度として有効性が期待されています。しかし、日本で導入するためには、制度設計上の課題も少なくありません。

(1)最大の課題は財源の確保

まず避けて通れないのが財源です。政府は、食料品の消費税率を2年間ゼロ%とする方針を示していますが、この措置だけでも約10兆円規模の財源が必要とされています。

その後に給付付き税額控除を恒久的な制度として運営するのであれば、さらに安定した財源を確保しなければなりません。制度の内容によって必要な財源は大きく変わるため、給付水準や対象者をどのように設定するかが重要になります。

(2)誰を給付対象にするのか

次に問題となるのが、給付対象の範囲です。給付を個人単位で判定するのか、夫婦単位とするのか、それとも世帯単位とするのかによって、制度の公平性や行政コストは大きく変わります。

また、児童のいる世帯や高齢者世帯など、特定の世帯類型をどのように扱うかも制度設計上の重要な論点となります。

(3)所得をどこまで把握できるのか

制度を公平に運営するためには、所得を正確に把握することが不可欠です。しかし、日本では所得税の申告義務がない人も少なくありません。そのため、税務当局だけでは所得情報を十分に把握できないケースがあります。

さらに、金融所得や資産所得をどのように制度へ反映させるかも課題です。米国では利子や配当などの資産所得も確定申告書に記載されますが、日本では申告不要制度などもあり、同じような仕組みにはなっていません。この点は、制度の公平性に直結する重要な論点といえるでしょう。

(4)マイナンバーの活用

制度運営の基盤となるのが、所得情報を正確に把握するためのデジタルインフラです。2026年1月末時点で、マイナンバーカードの普及率は約81%となっています。

今後、マイナンバーを活用した所得・資産情報の連携がさらに進めば、給付対象者の判定や給付事務の効率化は大きく進展すると考えられます。個人情報保護や情報管理の在り方については、国民の理解を得ながら慎重に制度を構築していく必要があります。

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