
◆小学4年生の原体験が、刑事への道を拓いた
——まず最初に、刑事時代の話から伺いたいと思います。刑事を目指したきっかけを教えてください。佐々木:小学校4年生のときの体験が、すべての始まりです。岩手県の高校野球大会を観戦した帰り、ベンチにビジネスバッグが置いてあるのを見つけました。「誰かに届けてあげたい」という一心で、名前の書いてあるものを探そうとバッグの中を探っていたところ、持ち主のおじさんが走って戻ってきて、猛烈に怒鳴られてしまいまして……。
そのおじさんの“大人の威圧感”に圧倒され、自分がしようとしていたことを何も言えないまま、父親まで呼ばれて頭を下げさせてしまった。「悪いことをしたわけじゃないのに」という悔しさで大泣きしました。そのとき、泥棒にされてしまったような気持ちになってしまったんです。
そのとき救ってくれたのは、5歳上の兄でした。泣きながら「泥棒なんかしようとしてない、名前の書いてあるのを見ようとしただけだ」と話したら、兄だけが信じてくれた。その体験がずっと心の中に残っていたんです。
——それがどのように刑事志望につながったのですか。
佐々木:その記憶がずっと残っていたのですが、高校生になってふと振り返ると、あのおじさんの気持ちもわかるようになっていました。知らない子どもが自分のバッグを探っていたら、誰だって勘違いする。でも、あのとき誰かが「なぜそうしたのか」を聞いてくれていれば、状況は変わっていたはずです。
子どもは経験や知識が少ないから選択肢が限られます。一方で大人は知見があるがゆえに先入観を持ってしまう。そのすれ違い、ミスコミュニケーションが非行や犯罪につながることもある。「そこに気づける大人になりたい」「そういう仕事をしたい」と思ったのが、警察官を受けることにしたきっかけでした。
◆「嘘を見抜く」のではなく「嘘を認めてあげる」
——そして刑事になられて、実際に取り調べをする側となった際、どういったことを心がけていましたか? 保身のために嘘をつく人もいると思うのですが……。佐々木:取り調べでは、嘘を見抜こうとはせず、嘘を“認めてあげる”という姿勢を大切にしていました。取り調べの中で嘘だとわかっても、そこでいちいち「それは嘘だろう」と指摘しない。それは、証拠もないのにそう言われた相手は、その時点で心を閉ざしてしまうからです。あの小学校4年生のときの自分が、怒鳴られて何も言えなくなったのと同じことだと思います。
そのかわりに言うのは「嘘をついているときって、つらくなってくるよね」という一言です。嘘はだめだと責めるのではなく、嘘をつき続けることが自分自身のためにならないということに、相手自身が気づくように促す。取り調べの目的は反省させることではなく、事実を述べさせることだと思っているので。

