もしも状態が悪化したら?…意思決定を支えるACPの難しさ
心不全の在宅療養は、医療技術の進歩によって可能性が広がる一方で、病院医療にも限界があり、医療資源の逼迫という社会的課題も抱えています。また、多くの患者さんが入退院を繰り返しながら少しずつ病状が進行していくという特徴もあり、極めて複雑な医療といえるでしょう。
だからこそ、患者さんご本人やご家族と十分に話し合い、これからどのような生活を送り、どのような医療を望むのかを共有することが何より重要になります。
状態が悪化したときには、その都度入院治療を選択していくのか。それとも入院による身体機能の低下や生活への影響も考慮しながら、自宅でできる限りの治療を続け、住み慣れた自宅で最期まで過ごすことを目指すのか。そのような意思決定を支えるACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、心不全診療において極めて重要な役割を担っています。
もちろん、その答えは患者さんごとに異なります。在宅医は患者さんやご家族の思いに耳を傾け、それぞれの価値観を尊重しながら、医学的な見通しを丁寧に伝え、その時点で最も適切と考えられる方針をともに考えていくことが求められます。時には、これ以上入院治療によって得られるものは限られていることを率直にお伝えし、在宅で穏やかに過ごすという選択をご提案することもあるでしょう。
このような場面では、医学的知識や技術を伝えるだけでは十分ではありません。患者さんやご家族に寄り添い、信頼関係を築きながら、ともに人生の大切な選択を支えていく力が求められます。心不全診療は、医学的な力だけでなく、在宅医自身の人間力も試される医療なのだと私は感じています。
だからこそ私たち在宅医は、患者さんやご家族から学び続けながら、医師としても人としても成長し続けていかなければならないのでしょう。
野末 睦
医師
医療法人 あい友会 理事長
