【結論】名義預金に贈与の意思は認められず
判決文の結論を確認しましょう。裁判所は、ポイントを大きく2つに分けて判断しています。
2.親族名義預貯金の帰属に関する裁判例
(9)原告の主張と、東京地裁による事実認定、結論
③東京地裁の結論
イ.結論1
原告に具体的な資金需要が生じたり、亡乙自身において具体的な資金需要が生じた際に、必要に応じてこれを解約し、各名義人の各預貯金の金額とは直接関係のない金額を現実に贈与したり、あるいは自ら使用することを予定していたとみるべきである。
ロ.結論2
亡乙においては、昭和55年頃当時またはその後の各預け入れの当時、将来の預入金額またはその後の預け入れに係る各預入金額を、直ちに各名義人に贈与するという確定的な意思があったとまでは認められない。
ハ.(9)②ハ.の500万円の出所についての結論
次のa~dの理由により、原告の主張は採用することができない。
a.亡乙が平成14年5月2日および20日に解約した原告名義の貯金の金額は合計約382万円にすぎないこと。
b.同月の時点において解約可能な原告名義の貯金は他にもあったが、解約されなかったこと。
c.同年6月3日に亡乙名義の普通貯金口座から出金された金員およびその翌日に原告名義の普通預金口座に入金された金員はいずれも500万円であること。
d.原告の亡乙から500数十万円を受け取ったという主張(図表の2(9)①ロ)に対しては、亡乙が500万円を超える金額の現金を原告に交付したことを裏付けるに足りる客観的な証拠はないこと。
1.名義人(長女)への贈与とは認められない
亡乙は、相続人やその子ども名義で本件申告預貯金等を作っていました。しかし、原告に資金需要が生じたときには、原告名義の預金だけでなく、亡乙名義の預金を取り崩して援助していました。場合によっては、亡乙自身が使うためにも本件申告預貯金等を利用していました。
つまり、預貯金を作った時点で「名義人へ贈与した」とはいえないというのが裁判所の結論です(上記2.(9)③イ)。
2.贈与の確定的意思は認められない
昭和55年に本件申告預貯金等を預け入れた当時から、亡乙に「名義人へ贈与する」という確定的な意思があったとは認められない、と裁判所は判断しました(上記2.(9)③ロ)。
おそらく亡乙自身は、裁判所が述べたような気持ちで預貯金を作っていたわけではないと思います。しかし、亡乙がとった実際の行動が、贈与したことを裏づけるものでなかったことが、結果的に敗訴につながりました。
名義預金を「贈与」と認めてもらうために必要なこと
吉田課長「この裁判から学ぶべきことは?」
ポイントを下記2.(10)にまとめました。
2.親族名義預貯金の帰属に関する裁判例
(10)親族名義預貯金が被相続人の預貯金とされないポイント(まとめ)
①贈与者の意識
贈与者は「この預貯金は預かり物である」という強い自覚を持つこと。
②名義・住所・登録印の一致
預貯金は受贈者の名義・住所で管理し、登録印も贈与者とは別のものを届け出ること。
③受贈者への資金移動の方法
受贈者にお金を渡す場合は、受贈者名義の預貯金を解約・払い戻しして渡すこと。贈与者名義の口座から渡すのは不可。
④通帳・印鑑を贈与者が預かる場合
①~③を満たす場合であっても、贈与者が受贈者名義の通帳や印鑑を預かる合理的な理由が必要。
⑤贈与を受けたことを明確にする方法
・受贈者が通帳と登録印を保有する
・贈与契約書を作成する
すでに述べたとおり、贈与者は受贈者名義の預貯金を「預かり物」として扱う自覚が必要です(上記①)。
また、これも当然のことですが、預貯金の名義・住所・登録印は受贈者のものでなければなりません(上記②)。さらに、受贈者に資金を渡す際は、必ず受贈者名義の預貯金を取り崩すことが重要です(上記③)。
②と③は、預貯金が受贈者の財産として成立していることを示す客観的な証拠になります。
今回取り上げた事例では、②・③の事実を十分に証明できなかったため、原告側は敗訴しました。また、①~③を満たしていても、贈与者が通帳や印鑑を預かっている場合は、税務署から理由を問われる可能性があります(上記④)。
そこで、税務署とのトラブルを避けたい場合は、受贈者が通帳と印鑑を贈与者から受け取り、自分で管理することが最も確実です(上記⑤)。
なお、贈与者と受贈者が同居している場合でも、受贈者が通帳を使って入出金を行い、税務署から質問された際には「使途」「原資」を説明できるようにしておくことが重要です。また、現代では、口座振込による贈与も一般的です。この場合は、当然ながら受贈者が普段使っている口座に振り込んでもらう必要があります。
要するに、受贈者が通帳のお金を自由に出し入れしている実績を作ることが、贈与の証明として有効です。
また、贈与を明確にする方法として「贈与契約書」を作成しておくことも有効です。
これにより、贈与者(親)と受贈者(子)が贈与契約を結んだ事実が客観的に残り、双方の「贈与した/贈与を受けた」という意識も明確になります。
多田 雄司
税理士
