不確実性の時代、選びがちな「みんながやっているのと同じこと」
現代社会はまさに、こうした不確実性に満ちた環境です。物価の変動、制度の改変、雇用の流動化、年金の見通し――将来どうなるかが見えにくい状況では、脳の警報システムは常にオンの状態になります。
さらに、比較できる他人の情報が常に目に入る環境や、失敗すると取り返しがつかないという空気が強い社会では、社会的比較がうつや不安の症状と有意に関連していることが、メタ分析によって示されています。
こうした条件が重なると、脳はネガティブな情報に過敏に反応し続けるのです。この状態で脳が「このままでは危険かもしれない」と警報を鳴らすと、私たちは何か行動しなければという衝動に駆られます。
そこで選ばれやすいのが、「正しいと言われていることをやる」「みんながやっていることをやる」という方向の行動です。不安な状態にあるとき、人は自分で考えるよりも外部の正解を求める傾向が強まることが研究で示されています。
「私、このままで大丈夫?」「何もしてないの、まずい?」「みんな動いてるのに、遅れてない?」その瞬間、脳の警報はさらに大きく鳴る。“このままでは危険かもしれない”と。
すると次に起きるのは、検索する、ランキングを見る。「初心者でも安心」「今すぐ始めないと損」。そして気づけば、“自分がどうしたいか”ではなく“正しいとされていること”を探している。本当は、不安を消したかっただけなのに。
選んでいるようで、不安に選ばれている。ここに、不安通貨は流通します。お金を増やしたいのか、安心したいのか、その区別がつかなくなる瞬間ということです。
不安を原動力とした選択ほど、安心を長く保てない
先ほど挙げたエピソードのように、お金の不安を感じたときにSNSで話題の投資法を調べたり、ランキング上位の金融商品に飛びついたりするのは、まさにこのパターンです。
一見すると合理的で勤勉な姿勢に見えますが、その行動の出発点は「不安を打ち消したい」という感情。自分の価値観や人生設計に基づいた判断ではありません。
カーネマンらの研究が示しているのは、不安を原動力とした選択ほど、安心を長く保てないということでもあります。不安を埋めるための行動は一時的な安堵しか生まず、しばらくするとまた次の不安がやってくるのです。
この構造が最もよく現れるのが「正解探し」の行動。不安を消すために探したはずの答えが、次の不安を生んでしまう。賢くなったからこそ、失敗の可能性もすべて想像できてしまう。
本来、知識は私たちを安心させてくれるはずですが、お金に関しては逆転現象が起きがち。問題の本質は知識の量ではありません。自分にとって何が大切なのか、何に幸せを感じるのか。この基準が言葉になっていないことこそが、不安を長引かせている要因なのです。
だからこそ、不安通貨をこれ以上増やさないために必要なのは、さらに行動を重ねることでも、さらに知識を積み上げることでもありません。
まず、この不安が増殖する仕組みに気づくことが大事。脳が不安を優先すること、比較を損失に変換してしまうこと、正解探しが次の不安を生むこと、にです。「あ、今このループに入ってるかも」と気づいた瞬間、冷静に自分を観察することができ、不安に振り回される頻度と強度が減ります。
不安の連鎖を断ち切る第一歩として、ぜひ意識してください。
※Grupe, D. W., & Nitschke, J. B. (2013). Uncertainty and Anticipation in Anxiety: An Integrated Neurobiological and Psychological Perspective. Nature Reviews Neuroscience, 14(7), 488–501.櫻井 かすみ
ママ金融投資家/ファイナンシャル・プランナー/株式会社トウシナビ 代表
