
久しぶりの帰省で、親との会話を楽しむ穏やかなお盆休み。しかし、そんな一家団欒の場で母親の口から飛び出した「爆弾発言」に、上場企業に勤める息子・タクヤさん(仮名・38歳)は、一瞬にして血の気が引いたといいます。純粋な「親心」が、一歩間違えれば息子の懲戒解雇や犯罪にすら発展しかねない恐ろしいトラブルとは……。1級FPの桐山昌也氏が、身近に潜む株式投資のリスクについて解説します。
上場企業勤務の息子が顔面蒼白…お盆の帰省時、母が放った「爆弾発言」
都内の東証プライム上場企業に勤めるタクヤさん(仮名・38歳)は、昨年のお盆休みに妻と子どもを連れて地方の実家に帰省しました。実家には、数年前に夫を亡くし、一人暮らしをしている母親・リョウコさん(仮名・68歳)がいます。
夕食後、くつろいでいたときのこと。リョウコさんがふと、誇らしげな顔でこう切り出しました。
「そういえばタクヤ、あんたのところの会社の株、買っておいたわよ」
「えっ!? いつ、どれくらい買ったの!?」
驚くタクヤさんをよそに、リョウコさんは笑顔で続けます。
「先月よ。経済のテレビ番組で、タクヤの会社の社長さんが出ていてね。素晴らしい事業を展開していくって聞いて、感動しちゃって。少しでも応援できればと思って、ネット証券で500万円分くらい買ったのよ」
悪気など一切なく、純粋な「親心」で自社株を購入した母親。しかし、タクヤさんの頭のなかには「インサイダー取引」や「懲戒解雇」といった恐ろしいワードが浮かびました。
「母さん、なにやってんだよ! 俺は会社で新規プロジェクトに関わってるんだ。もし今、未発表の情報がある時期だったらどうするんだ!」
タクヤさんが思わず声を荒げると、リョウコさんは「なんで怒るのよ、あんたから会社の秘密なんて聞いてないじゃない」と不満顔です。
確かに、タクヤさんは内部情報を漏らしたことは一度もありません。母親は完全に独自の判断で株を購入しました。それでも、社員の親が息子の勤め先の株を売買することは、法的に問題があるのでしょうか。
【1級FPが解説】身内の自社株買いは「インサイダー取引」になるのか?
今回は「身近に潜むインサイダー取引のリスク」について解説します。ニュースなどでよく耳にする「インサイダー取引」ですが、そもそもなぜ法律で厳しく禁じられているのでしょうか。
理由はシンプルで、「ズルいから」。そして「市場の信頼を根本から壊してしまうから」です。
株式投資は、すべての投資家が公開された情報をもとに、平等な条件で予測を立てて売買するからこそ成り立ちます。一部の会社関係者だけが「明日、業績の上方修正が発表されて株価が急騰する」という“秘密の答え”を知った状態で株を買えたら、何も知らない一般の投資家はババを引かされます。いわば、トランプのババ抜きで相手の手札を覗き見しながら勝負するようなものです。このようなイカサマを防ぐため、重い罰則付きで禁止されています。
インサイダー取引とは以下の要件を満たした場合に成立します。
・誰が:上場会社の関係者(役職員など)や、その人から情報を聞いた人が
・何を:株価に重大な影響を与える「未公開の重要事実」を知りながら
・いつ:その情報が「公表される前」に株式を売買すること
今回、タクヤさんは母親に重要事実を伝達しておらず、母親はテレビ番組などの公開情報をもとに独自判断で購入しています。「情報伝達」がない以上、インサイダー取引の法律上の要件は満たしていません。
しかし、「絶対にペナルティを受けない」と断言することはできません。市場を監視している証券取引等監視委員会から見れば、「親子間で本当に情報のやりとりがなかったか」は、外からわかりません。タイミングによっては「疑いあり」として厳しい調査が入るリスクがあります。
