◆トウモロコシ畑に本物のメジャーリーグがやって来た日
その“映画の球場”の隣に、本物のメジャーリーグがやって来たのが2021年だった。映画で使われたダイヤモンドから約400m離れた場所に、試合を行うための仮設球場が造られ、ホワイトソックスとヤンキースが対戦。アイオワ州で初めて行われたMLB公式戦は、9回に試合がひっくり返る劇的なサヨナラ決着となった。この初開催では、選手たちがトウモロコシ畑の中から姿を現した。映画の世界に現実のメジャーリーガーが入り込むような演出で、試合そのものだけでなく「この場所でやる意味」まで強く印象づけた。映画の記憶を再現するだけでなく、本物の試合が新しい記憶を生む。その循環が、この場所を過去のセットで終わらせていない。
翌2022年にも公式戦が行われ、今年4年ぶりに復活する。今回は従来の仮設ではなく、新たに整備された常設球場で行われる最初のMLB公式戦になる。映画のダイヤモンドと常設球場は別々に存在し、来場者はトウモロコシ畑を抜ける道を通って両者を行き来する。
映画を愛した人にとって、そこはロケ地を見るだけの観光スポットではない。スクリーンの中にあったダイヤモンドを実際に歩き、同じ場所でボールを投げる。懐かしい映画の世界に入り込み、自分や家族の新しい思い出までつくれることが、アイオワの田舎町まで人を引きつける大きな理由なのだろう。
2026年は、新たな常設球場でMLB公式戦が行われ、その模様が世界へ配信される。映画の記憶を受け継ぐ舞台は、一度きりの特別イベントではなく、次の世代へ新しい物語を届ける場所にもなろうとしているのだ。映画をリアルタイムで知らない世代に、この場所の物語を届け直す機会にもなるだろう。
◆31年前、18歳の私がたった一人で“夢の球場”を目指した理由
そして、31年前の私もその場所を訪れた一人だ。高校時代、『フィールド・オブ・ドリームス』にはまった私は、英語音声をカセットテープに録音して何百回も聴き、全セリフが載った解説本で聞き取れない言葉や表現を確かめた。好きな映画であると同時に、英語の教材でもあった。
高校卒業後の1995年3月、語学留学でオレゴン州へ渡った。秋からイリノイ州の学校へ移る手続きを8月に済ませ、そのまま一人旅に出た。荷物はリュックひとつ。最初の目的地はフィールド・オブ・ドリームスだった。
長距離バスでダイアーズビルの町には辿り着いたが、バス停から球場までの行き方は調べていなかった。インターネットがまだ一般に普及する前。歩くか、ヒッチハイクでもすればいい。18歳の私は、その程度に考えていた。
バス停を兼ねたコンビニで、球場への道のりを聞こうと店員に近づいた。すると店員は私を見るなり、驚いたような様子を見せたが、その時は理由が分からなかった。
私は「フィールド・オブ・ドリームスへ行きたい。ここからどうすれば行ける?」と尋ねた。すると店員は少し慌てた様子で、「ちょっと待ってろ! 今すぐ迎えが来るから」というようなことを言った。
迎え……? 私は球場への行き方を尋ねただけである。

