◆まさかの勘違いから見知らぬ男性の車へ
事情がのみ込めないまま待っていると、本当に一人の男性が車で現れた。見ず知らずの男性の車に乗るのは、正直少し怖かった。誘拐でもされたらどうしよう、という不安もよぎった。それでも球場を諦めきれず、乗り込んだ。
タクシーでもない車がなぜ私を運んでくれるのか――。走り出して話しているうちに、どうも会話が噛み合わない。男性の口からは野球の試合の話が出るのに、こちらには何のことかわからなかった。
渡米してまだ5か月足らずで、英語も拙かった。最初は私が聞き取れていないだけだと思ったが、それだけではない気がした。
「この人、私を誰かと勘違いしていないか!」
やがて事情がつながった。男性は私を、その日この町を訪れていた山梨県の高校野球選抜チームの一員だと思っていたのである。
山梨県とアイオワ州は姉妹州県で、当時は高校野球でも交流が続いていた。その日は偶然、山梨県のチームが町を訪れており、別の球場で交流試合をするという。
今思えば、コンビニの店員も事情を知っていたのだろう。日本から来た高校生なら全員、試合会場にいるはずなのに、同じ年頃の日本人が一人で現れた。「選手が取り残されている」と思い、慌てて関係者を呼んだのかもしれない。
人違いだとわかった時は、かなり気まずかった。それでも男性は、そのままフィールド・オブ・ドリームスまで連れていってくれた。
◆映画で何度も見たダイヤモンドで過ごした“わずかな時間”
映画で何度も見たダイヤモンドが、本当に目の前にあった。30年以上前のことだから、その瞬間に何を感じたかは、正直思い出せない。ただ、球場を歩き回り、ベンチに腰掛けたことは今も記憶に残っている。男性をいつまでも待たせるわけにはいかず、滞在は30分足らずだったと思う。いや、10分ほどだったかもしれない。その後、彼は車で交流試合が行われている球場へ私を運んでくれた。到着するとすでにプレーが始まっていた。
ひとまずバックネット裏に腰を掛けると、山梨からの新聞記者と遭遇。試合を見に来ていた一人の日本人女性を紹介してもらった。アメリカ人の夫がリタイアしたのを機に、彼の故郷ダイアーズビルへ移ってきた日本人女性だった。
彼女は「この町で外国人は自分だけだ」と話した。本当に一人かはわからないが、日本人の私と出会えたことをとても喜んでくれた姿は覚えている。

