爆音のYouTube、脱ぎっぱなしの靴…遠慮ない態度に緊張感の漂うリビング
「久しぶりの実家は落ち着くね」と夫Aさん。広くもない実家のリビングで2台のキャリーケースを広げ、子どもたちのためにYouTubeをテレビに繋ぎ、騒がしい音声が家中に溢れました。その後、動画に飽きた子どもたちはソファを飛び跳ね家中を走り回りますが、Aさんが注意することはありません。
それだけでなく、Aさん自身もまた、一つひとつの言動に遠慮がありません。玄関のドアは開けっ放し、スリッパや靴は揃えられず乱雑に散らかっています。
さらに、Aさんは「子どもが熱中症になったら大変だから」と冷房を20度に設定。冷え性の母親は、35度を超える真夏だというのにカーディガンを羽織り、膝掛けをかけて耐えるしかありませんでした。「寒いから少し温度を上げてもいい?」と母親が遠慮がちに聞いても、「子どもがいるから無理だよ」のひと言で押し切られてしまいます。「年寄りはすぐにエアコンを切りたがるよね。だから熱中症になるんだよ」という始末。
Aさんはリビングのソファに足を広げて座り、スマホを眺めながら「お母さん、冷たいお茶ある?」「今日の夕飯なに?」と、まるで中学生のよう。そんな夫の様子を見ていたBさんは、このままではまずいと、当初の不穏な空気に確信を持ちます。夫に対し「あなたの家じゃないんだから、もう少しお客さんの態度をして。もうこの家の人じゃないでしょ?」と注意しますが、Aさんは納得がいかない様子です。
「え? だって俺んちじゃん。実家なのに他人行儀っておかしくない?」
Bさんは夫の幼稚な考え方に呆れ、「いい加減にして。私が気まずいの」と耳打ちしますが、夫は理解できない様子。子どもたちを誘って庭に出て、プールを出して水道から水を大量投入。子どもと一緒になって大きな声を出し、水をかけ合い、遊びはじめました。
そんな様子を黙って見ていた父親は憮然とした表情で新聞を読んでいますが、家のなかはどんどん緊張感が漂います。
「お義母さん、私なんでも手伝うので」とBさんは立ち上がりましたが、義娘に気を遣っているのか、「東京から来て疲れているでしょうから、手伝いはいらないわよ」と断ります。「それに、お盆に実家に帰ったら召使いのようにいろいろ手伝わされたって人多いじゃない? 私はそんなことしないから安心して」。そういわれると、Bさんも返す言葉がありません。
そんなやりとりの最中も、夫Aさんは、冷蔵庫を開けてなにやら断りもなく食べはじめる有様です。「ウィンナーがたくさんあるけど、こんなの毎日食べてるの? 加工肉は年寄りにはよくないよ」などと論評まで加えながら。
母親流のもてなし
Aさん一家の滞在中、母親の朝は5時に始まりました。孫が起きる前に朝食の下ごしらえを済ませ、洗濯機を3回まわし、日差しが強くなる前に洗濯物を干します。妻Bさんも朝早くに起きて、手伝おうとしますが、母親は断固拒否。「嫁にはやらせない」の一点張りです。
皆が朝食を終えるころには、猛暑のなか、大人4人と幼児2人分の食材を求めてスーパーへ歩いて通いました。普段は夫婦2人分、カゴ半分で済む買い物が、両手いっぱいのレジ袋に変わります。袋が手に食い込み、痛いのです。
帰宅しても休むことなく昼食の支度が始まり、片付けが終われば夕食の仕込みが待っていました。孫が喉に詰まらせないよう野菜は細かく刻み、アレルギーはないかと気を配り、息子にはビールとつまみを用意します。父親が、母親に「がんばるな、あいつらにやらせろ」と声をかけます。しかし母親は、帰省してきた子ども家族にやらせるのは、親としての恥だと考えているようでした。
夜になれば、重い客用布団を4組引きずり出し、一人で敷いて回りました。持病の腰の痛みを堪えながらシーツを整え、翌朝にはそれを畳んで押し入れに戻そうとしていましたが、そこは妻Bさんが黙って勝手に手伝いました。Aさんはいいます。
「母さんのやり方があるんだから、無理に手伝わなくていいよ。Bもゆっくりしなよ」
それを聞いた妻Bさんは、さすがにカチンときました。
「だったら、あなたがやってよ! 子どもみたいに無神経にくつろいで、本当に40歳の大人なの? その幼稚な振る舞いに私もううんざり! 先に東京に帰っていい? もう嫌だ!」
ものすごい剣幕に驚く夫Aさん。「母さんからなにか嫌なこといわれたの?」と妻に聞きます。
「違う! あなたのその幼稚な態度にうんざりしてるのよ!」
夕食時に起きた“事件”
そして、その日の夕食時、事件は起こりました。
母親は「せっかく帰ってきたのだから」と、鶏の唐揚げと煮物を仕込みました。Aさんが子どものころから好きだった料理なので、孫たちにも喜んでもらえると思ったのです。鶏肉に下味をつけて寝かせ、油の温度を見ながら二度揚げし、彩りに夏野菜の素揚げも添えます。テーブルに並んだ料理は、どれも手間のかかったものばかりでした。
しかしAさんは、唐揚げを一口かじるとこう言い放ちました。
「あー母さん、Bが最近オーガニックにハマっててさ。こういう濃い味付けとか揚げ物、子どもに食べさせないようにしてるんだよね」
その瞬間、食卓の空気が凍りつきました。隣で妻Bさんは驚いてしまいます。「そんなことありません! おいしくいただいてますから!」と少し大きな声で取り繕いますが、母親の顔からはすっと血の気が引いていました。
「……じゃあ、食べなくていいわよ」
母親は料理をテーブルから下げはじめました。向かいで黙って聞いていた父親が、孫2人に違う部屋でYouTubeを見なさいと促しました。孫が違う部屋に行くのを確認すると、息子を指さし怒鳴ります。
「おまえ、いますぐ荷物をまとめて東京に帰れ!」
Aさんとしては予想外の両親の反応に、つい言い返します。
「なんだよ急に! 孫を会わせに来てやったんだろ!!」
「誰が孫に会わせてくださいとお願いしたんだ、おまえは何様なんだ! 孫を見せたら母親を召使いにしても当然なのか!」と父親は息子にまくしたてます。母親はすでに台所のほうに消えていました。
「お義父さん、ごめんなさい。本当にごめんなさい」と妻Bさんは謝りますが、父親は「Bさんを驚かせて申し訳ない。Bさんを責めてはいない。こんな息子で申し訳ない。気を遣って居心地が悪くなっていただろう。全部このバカ息子が悪いんだ」とAさんを睨みます。
Aさんは怒って、外に飛び出してしまいました。父親に叱られるとすぐに家を飛び出す習性は、中学生のころから変わっていないようです。
