映画『八月の声を運ぶ男』主演・本木雅弘さんが語る、戦争の記憶とこれからの生き方「『自分ごと』にしなければ真実には決して辿りつけない」

映画『八月の声を運ぶ男』主演・本木雅弘さんが語る、戦争の記憶とこれからの生き方「『自分ごと』にしなければ真実には決して辿りつけない」

今年もまた、8月が訪れました。戦禍に傷ついた過去を振り返り、いま、そしてこの先が平和であり続けるようにとの願いをあらたにする時期に、1 本の映画が封切られます。
広島、長崎に投下された原子爆弾、その被害の記憶がまだ薄れていない 70 年代に、被爆した人々のもとを訪ね、ひとりひとりの肉声を拾った実在のジャーナリストをモデルにした『八月の声を運ぶ男』。ある被爆者との出会いが彼の信念を揺るがす迫真の物語に、主人公を演じながら向き合ったのが俳優・本木雅弘さんです。
作品から受けとったもの。そして、戦争の記憶を受け継ぐ大人のひとりとして心に刻み直したこと。公開を前に、率直な思いを聞きました。

決して真似のできない孤独な生き方。
でも、誰より濃く生きた人に憧れも感じた

『八月の声を運ぶ男』は、高度経済成長に沸く 1970 年代、戦争の記憶が薄れゆく世相に抗うように被爆者の体験を収集し続けたジャーナリスト・伊藤明彦(1936-2009)氏の実話と手記を原案とする物語。2025 8 月、NHK で戦後 80 年ドラマとして放送されると、大きな反響を呼び、ギャラクシー賞テレビ部門大賞、橋田賞など数々の賞にも輝きました。
その求心力の源は、やはり、語られた被爆者の言葉と伊藤氏の体験が事実であること。本木雅弘さんも、その重みに打たれたといいます。

1971 年から 79 年の 8 年間で、1038 人の被爆者の語りを収録した伊藤さん。その生きざまに、まず圧倒されました。1000 もの人々の声を聞き取りながら、それ以上の数の方々に断られてもいるんですよね。つぎ込んだ労力、その日々の孤独……伊藤氏は生涯、家庭を持つことなく仕事に専心されましたが、被爆者の方々の声に導かれながら、おそらくその痛みを共有していたのでしょう。究極の選択をして、それを貫いた人の潔さは、私にはとても真似のできないものですが、だからこそ、彼だけにしか感じられなかった達成感もあったのでは、と。人生を、ある意味、誰よりも濃く生きられたことには、憧れも感じました」

肉声は、なによりも強く体験の実相を伝える。そんな伊藤氏の信念と収集への執念を身に乗り移らせた主人公・辻原は、被爆者のもとを訪ね歩く日々を送るなかで、ひとりの被爆者の男性の語りに強く惹きつけられます。しかし、何度か聞きとりを重ねるうちに、ある疑念が辻原の胸に湧き……物語は、歴史のなかに真実を見出そうとするミステリーに転じていきます。

「池端俊策さんが書かれた脚本は、真実を語り継いでいくことの大切さとともに、その難しさも説いています。歴史的事実があったとして、それが歴史的真実になっていくなかでは、やはり人それぞれの尺度が働いて……。他者の苦しみは、ただ単純に寄り添えばいいというものではなく、それがどこから生まれ、どこに向かおうとしているのかということも含め、自分ごとにして突き詰めていかなければ真実には辿り着けない。そう問いかけている物語だと思います」

歴史的文学作品、祖父が仏壇に供えた里芋。
戦争体験は、「結晶」となって受け継がれる

本木さんが読んだ伊藤氏の著書のなかには、自分は当初、原爆投下という犯罪行為の被害者の声を聴取する刑事のようなつもりだったが、これからは〝放火犯〟になりたいという記述もあったといいます。

「被爆者の胸の内に燃え続ける悲しみや怒りの炎を、幾百、幾千万の人々の胸の内に焚きつけていきたい……そんな一節を読んだときには、心のなかでなんともいえない声をあげてしまいました。その熱い信念に押されて思わずウォ〜っと。伊藤さんによると、たとえばトルストイの『戦争と平和』は、ナポレオンのロシア侵攻から半世紀経って書かれているし、マーガレット・ミッチェルの『風とともに去りぬ』は、南北戦争から 70 年あまりの時を経て生まれた物語だと。ひとつの歴史的、民族的大事件が文学作品に結晶するまではそのくらいの歳月が必要で、体験は結晶化して、説話や民話として語り継がれ、「よみ人知らず」の歌のように、あるいは神話のようになっていく。この作品も、原爆投下から 80年という時間の果てに生み出された、そうした結晶のひとつだと思うんです」

時代の結晶のひとつは、実は本木さんの身近にもありました。本木さんの実家の仏壇には、毎年、お盆に里芋が供えられていたそうですが、それは本木さんの祖父の戦争体験に由来する習慣だったのです。

「祖父がニューギニア近くの島で砲撃隊員として従軍していたとき、まだ新米の兵で、炊事をするために隊を離れ仲間ひとりと沢で里芋を洗っていた。すると、その間に砲撃を受けて祖父の隊の人たちが亡くなってしまったのだそうです。小学生の頃に祖父に聞いたような気がするのですが、幼かったせいか内容がおぼろげで、のちに彼が亡くなったときに自身が戦争の体験を綴った小冊子が出てきて、それを読みあらためて知りました。祖父が従軍した時には私の父はすでに生まれていたので、私の出生に直接つながる話ではありませんが、そのくらい死と隣り合わせだったんだなと」

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