税務当局は暗号資産をどこまで把握できるのか
今回の改正が直接変えるのは、暗号資産取引による利益を把握する税務調査そのものというより、確定した税金を回収する「滞納整理」の部分だ。
では、そもそも税務当局は自己管理ウォレットの暗号資産をどこまで把握できるのだろうか。
貝井税理士によれば、国内の暗号資産交換業者への照会、銀行口座の入出金、スマートフォンやパソコンに残された情報、ブロックチェーン上の取引履歴などから、暗号資産の保有や取引状況を把握できる場合があるという。
特に、国内の暗号資産交換業者から自己管理ウォレットへ暗号資産を送っている場合には、交換業者が保有する本人確認情報や入出庫記録と、ブロックチェーン上のウォレットアドレスを結び付けられる可能性があるという。
貝井税理士は次のように説明する。
「入口となるアドレスと本人との関係を把握できれば、その後の資金移動を追跡できる場合もあります」
さらに、OECDが策定したCARF(暗号資産等報告枠組み)に基づく国際的な情報交換も順次始まるため、「国外の交換業者を利用すれば税務当局に把握されない」とはいえなくなっていく。
もっとも、ブロックチェーン上には通常、利用者の氏名が直接表示されているわけではない。取引所や銀行などとの接点がなく、ウォレットアドレスと本人との関係を示す資料もない場合には、税務当局が保有者を特定することが難しいケースも残る。
したがって、今回の改正は暗号資産を「見つける」ための制度というより、把握した暗号資産を実際の徴収につなげるための制度と捉えるべきである。
暗号資産同士の交換でも課税される点に注意
暗号資産投資では、「日本円に換金していないから、まだ税金は発生していない」と考えてしまうケースがある。
しかし、暗号資産については、日本円への換金だけでなく、暗号資産で商品を購入した場合や、別の暗号資産と交換した場合にも、原則として所得が生じる場合がある。
また、ステーキングやマイニングなどによって暗号資産を取得した場合にも、課税関係が生じることがある。
特に注意したいのが、暗号資産同士を交換して利益が確定しているにもかかわらず、納税資金を円で確保していないケースである。
貝井税理士は、こうしたケースについて次のように注意を促す。
「価格上昇時に暗号資産を交換して多額の利益が発生した後、保有を続けている間に価格が急落すると、手元の暗号資産をすべて売却しても税金を支払えない事態が起こり得ます。納期限までに納付できなければ延滞税が発生し、預金や給与、不動産だけでなく、暗号資産も差押えの対象となります」
暗号資産を売却したり、別の暗号資産と交換したりして利益が確定した後、保有する暗号資産の価格が急落しても、すでに確定した税額が当然に減るわけではない。「利益は出たが、税金を払う現金がない」という事態を避けるには、利益が確定した時点で納税資金を確保しておく必要があるだろう。
「税金分」を現金で確保しておくことが重要に
暗号資産の投資では、含み益だけを見て「資産が増えた」と判断するのは危険だ。利益が確定した段階で、その利益に対応する納税資金を確保しておかなければ、相場の急落によって納税資金が不足する可能性があるからだ。
貝井税理士は、投資家が日頃から意識すべき点についてこう話す。
「投資家としては、取引の都度、課税対象となる利益を把握し、納税見込額に相当する資金を円で確保しておくことが重要です。また、取得価額を確認できなければ、実際の利益より不利な計算となる可能性があるため、取引履歴、送受信履歴、取得価額などの記録を継続して保存しておく必要があります」
暗号資産を保有する人にとって、ウォレットの管理だけでなく、税務記録の管理も重要な資産管理の一部になるようだ。
「ウォレットを自分で管理すれば大丈夫」という時代ではなくなる
暗号資産の世界では、「Not your keys, not your coins(秘密鍵を持たなければ本当の意味で自分の資産ではない)」という考え方がある。取引所の破綻リスクなどを避けるため、暗号資産を取引所から引き出し、自らウォレットで管理する投資家も少なくない。
しかし、資産を自己管理していることと、税務上の義務から逃れられることは別問題だ。
今回の国税徴収法改正は、暗号資産が「デジタルだから差し押さえにくい」という従来の徴収実務上の課題に対応するものだ。
改正後は、自己管理ウォレットに保有する暗号資産についても、把握された財産を徴収職員の管理下へ移すための法的手続が明確になる。さらに、移転命令に正当な理由なく従わなければ、3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金の対象となる可能性がある。
ただし、税務当局が秘密鍵を復元して本人の意思とは無関係に暗号資産を送金できるようになるわけではない。
今回の改正は、自己管理ウォレットの暗号資産について、差押えを実際の換価・回収につなげるための手続を強化するものといえるだろう。
令和9年4月1日の施行を前に、暗号資産を保有する人が確認すべきなのは、「どこに保管しているか」だけではない。
売却や別の暗号資産との交換などによって利益が確定した時点で税額を見積もり、納税資金を確保しているか。取引記録をきちんと残しているか。そして、納税義務を果たさないまま資産を自己管理ウォレットに移しても、徴収を免れることにはならない――。
暗号資産が一般的な投資対象となったいま、こうした税務上の基本を理解しておくことが、これまで以上に重要になっている。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
