実際の融資審査シミュレーション
具体的な融資の審査はここからです。
不動産収入が年間1,200万円、表面利回りが5.0%の物件(2億4,000万円)を購入したとします。銀行の担保評価は2億円、自己資金を4,000万円入れるとします。
購入後のB/Sは以下の通りとなります。
[図表3]
純資産が6,000万円であるため、審査としては問題ありません。
ただし、当初の純資産1億円からは▲4,000万円となっています。次の物件を購入した場合には純資産がマイナスになってしまい融資が通らない可能性もあります。
ここで留意する点は、繰り返しになりますが不動産の価格(担保評価)はあくまでも各金融機関が定めている点です。
購入した当事者は金融機関が作成したB/Sを見る機会がないため、このケースでは不動産の価値は購入金額である2億4,000万円であると考えており、資産(不動産)+2億4,000万円・(金融資産)▲4,000万円に対し、負債+2億円とバランスしている、すなわち純資産は減っていないと考えているはずです。
したがって、特に資産の内訳として不動産が多い場合には、「これだけ不動産を所有しているのに、なぜ融資が通らないんだ」と感じることもあるでしょう。
その理由の大半は、金融機関の担保評価にあります。
次に不動産購入後のP/Lを見ていきましょう。不動産収入1,200万円が追加されました。
[図表4]
上記収支に対してローン2億円を調達した場合の早見表が下図の通りです。左側に金利毎の返済額を入れています。
[図表5]
仮に、当該金融機関の審査金利が「4.0%」であったとすると平均でも+170万円程であるため審査としては問題ありません。
次に物件の収入単体で同じ早見表で見ていきます。
金融機関の収入に対する掛け目が70%であるとすれば、真ん中の列になり同じく金利4.0%を審査金利としていればマイナスとなっています。すなわち、物件の収支単体ではマイナスとなることから融資が通らないことになります。
[図表6]
このケースでは年収が2,000万円程ある高給与所得者であることから、融資の組み立てができていますが給与収入が低ければ成り立ちません。必要資料として確定申告書や源泉徴収票を求めるのはこのためです。
元銀行員の視点から
筆者が銀行員として働いていた頃には、融資の目標があったため高給与所得層を多く抱える不動産業者や税理士事務所などと接点を持ち、融資案件の持ち込みを依頼していました。
先述の通り、高給与所得者は審査の組み立てが比較的容易であり、かつ所有不動産が少なければB/SやP/Lを作成する手間が減るためです。
反対に、多くの不動産を持っており、それに伴い多くの借入があるようなケースでは不動産の評価や既存借入の精査に時間がかかるため、なるべく避けたいという気持ちが本音でした。
ただし、一度時間をかけて作成してしまえば、その後の稟議においては手間が減り、また他の金融機関からの既存借入の中から借換の提案をしたりと商売の機会を広げることにも繋がるため、最初から断ることはなく全体像を把握しながら作業を進めていました。
個人のみの場合は、まだ手間が少ないですが、資産管理会社がある場合には当該法人の決算書についても合算して稟議書を作成するため更に複雑になります。なかには複数の資産管理会社を持っている資産家もいるため稟議書の作成において多くの時間を割くこともありました。
また、本題から少し逸れますが、かつて「一法人、一金融機関」スキームなるものがありました。個人信用情報においては他に所有する資産管理会社が判明しないため、この点を悪用して「あくまでも法人は一つしかない」と金融機関を欺き、ローンを調達しようとする犯罪行為です。この手法により複数の金融機関から、それぞれの資産管理会社でローンを調達し一気に不動産の数を増やすことを目的としています。
最近では、他に法人がないことを誓約させたり法人登記などで調査するなどして不正を未然に防止していると思われます。このような行為は、金融機関の信頼を著しく失墜させるため、絶対に行ってはいけません。
