【特集・スープ】スープ作家・有賀薫さんが一生作り続けたいと思うスープ

【特集・スープ】スープ作家・有賀薫さんが一生作り続けたいと思うスープ

長年スープを作り続け、SNS を中心に発信しているスープ作家の有賀薫さん。その有賀さんに、人生の最期まで伴走してほしいと願うスープを聞きました。時代とともに変化する暮らしのスタイルやリズム。その中でスタンダードとして残っていくスープとは?

変化する時代と暮らしに応用がきく、基本のスープを

「父が汁物好きで、家のごちそうのひとつが水炊きでした。私も子どもの頃から鶏のスープが大好きです」
スープ作家の有賀薫さんが、生涯作り続けたいスープとして選んだのは、鶏とかぶのポトフ。
「ポトフは料理家になる前から作ってきましたが、なかなか定番化できなかった料理です。具の煮え具合が揃わない、野菜が煮崩れるなど意外に難しい。試行錯誤して、最初に肉を煮て、後で野菜の煮え加減を調整するスタイルに落ち着きました」

ひと口飲むと、鶏のうまみやネギの香り、それぞれの輪郭がはっきりとしたおいしさに驚かされます。
「鍋に材料を入れて、水を加え、煮て、味を調える。ポトフはすべてのスープの原型といえます。その本質は、肉や野菜のうまみを水から煮て引き出すこと。とてもプリミティブですよね。でもそれで十分においしい」

ニンジンだけ、豚とジャガイモだけと使う食材を絞り、味付けは基本的に塩、胡椒。ときには少しのバターやオイル。蒸し焼きにしたり焼き付けたりして素材の持ち味を引き出す、有賀さんのレシピは実にシンプルです。現代の外食では濃い味が流行し、家庭でも顆粒だしやスープの素が重宝される中で、そのミニマルなスープが支持を集めてきました。とはいえ、市販の固形スープを使うこともあります。ただ、効果的に使えばうまみをぐっと底上げできる一方、量が多いとせっかくの素材の風味を覆い、画一的な味になりかねません。
「それは逆に不自由ですよね。具は違うのにスープの味がいつも同じになってしまうと、読者の方から相談が寄せられることも多いです」

「かぶの煮え具合が最も重要。ソーセージは皮が弾けないよう最後に」と有賀さん

今年9月、有賀さんは自身のスープレシピの集大成ともいえる本『ライフ・スープ』を出版しました。
「タイトルには、読む人の『生活の中にあるスープ』にしてほしいという思いを込めました。生活って人それぞれですよね。好き嫌いがあるかもしれないし、小さな子どもがいたり、あるいは子どもが独立して夫婦だけになったり。1人世帯も増え、現代は生活様式が多様です。ポトフの原理もそのひとつですが、その人の生活に応用できる、スープの考え方を伝えることを大切にしました」

目指したのは、多くの人が好むレシピを時代に合うようアップデートし、新定番として定着させること。
「スープという料理は現代の食卓に合っています。簡単で失敗しにくく、温め直せばいいから家族が時間差で食べるときにも便利。子どもからお年寄りまで皆が食べやすく、しかも鍋ひとつでできるから、作るのも片付けるのも楽。油はあまり使わずヘルシーで、いいこと尽くめ。私は人生の最期まで、自分がおいしいと思える味の料理を作り、味わっていきたい。この気持ちは多くの人が共感してくれると思います。そのための手がかりを見つけてもらえたら」

鶏とかぶのポトフの作り方

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