冨山和彦氏「ゲームチェンジの時代、リーガルマインドを社会全体に広げよ」、司法試験「1万人合格」論の根拠

冨山和彦氏「ゲームチェンジの時代、リーガルマインドを社会全体に広げよ」、司法試験「1万人合格」論の根拠

● リーガルマインドがなく、政策形成や企業経営をするのは危険

では、「広義の法曹」に求められるものは何なのか。冨山氏は「リーガルマインド」だという。

「法律というのは、社会がどう規律されて、道理づけされているかという、社会デザインのプログラム用語です。『広義の法曹』は、それをちゃんとわかっているということなのです。知らないで企業経営をしたり、政策を作ったりすることは危険です。

政策も、最終的には法令と予算しかないわけですから、リーガルマインドがない人が政策を考えても掛け声にしかなりません。物事を動かす場合、ルールを変えることで動機づけて、場合によっては予算もつけないと変わらないのです。

経営も同じです。人事制度を変えて昇進昇格の基準を変えるというようなことは、ルールデザインの話ですから、法的センスがないと致命的ですし、とりわけ今みたいにイノベーションドリブンな成長モデルになってくると、結局どうゲームチェンジをしていくのかという話になります。そうなるとルールデザインセンス、リーガルマインドは極めて生産的な武器なのです。

昨今、企業で起きている性加害などの不祥事についてもリーガルマインドの欠如が背景にあります。社会通念が色んなルールの基本になっているのに、センスが鈍くて、社会通念が変化していることがわかってない。

リーガルマインドはビジネス上も決定的な意味を持っているので、法曹の独占物ではなくて、組織のリーダーにとっては必須のアイテムです。だから、『広義の法曹』を大きく増やすことに意味があるんです」

● 法学部は文系モラトリアム学部の典型例

そこまで広げていくのであれば、今の法曹ではなく、大学の法学部での教育を充実させればいいのではないか。この点に関しても冨山氏は手厳しい。

「法学部ってはっきり言って文系モラトリアム学部の典型例なんですよ。ほとんどの学生は司法試験を受けないんだからモラトリアム学部以外の何者でもない。今の大学教育の問題を象徴しています。

戦後の発展の際には、大量のホワイトカラーを作るための『ぼんやり4年間モデル』になっていたわけですが、今やホワイトカラーは絶滅危惧種になっています。AIが発達すればするほど、デスクワーク仕事はどんどん減ります。

『法学部出たけど、それがどうしたの』となってしまう。東大も含めて、もはや法学部は没落・衰退しつつあります。

法科大学院にしても、法曹界が本音と建前の議論をしている間に世の中に見放されています。受験希望者も減って、危機的でしょう。もっとちゃんと世の中に打って出ないと。そこまで追い詰められていると思います」

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