冨山和彦氏「ゲームチェンジの時代、リーガルマインドを社会全体に広げよ」、司法試験「1万人合格」論の根拠

冨山和彦氏「ゲームチェンジの時代、リーガルマインドを社会全体に広げよ」、司法試験「1万人合格」論の根拠

●法曹が変わらないならば、企業は自衛手段を考えるようになる

冨山氏は『広義の法曹』を増やすことができないならば、「旧司法試験の仕組みに戻して、合格者500人程度の『最狭義の法曹』に閉じこもっておけばいい」と指摘する。しかし、もし法曹の数を大きく減らしても、問題は起きないのか。

「そうなったら、別のものをやればいいんです。ちゃんと世の中に役立つような法知識を企業人とかアントレプレナー(起業家)に教えるプログラムをすればいいだけです。

企業も法曹のあり方を変えることに付き合っているほどの暇はないので、彼らは勝手に自衛手段を考えます。内部で育成したっていいし、海外のロースクールに行かせてもいい。戦いの舞台は世界なので、人材も日本人に拘る必要もないでしょう。そうなると国内の法曹は勝手に萎んでいくだけの話なのです。

もちろん、社会的に弱い人の権利を守るということは大事な仕事ですから、それは数の少ない『最狭義の法曹』でやればいい。でもそれはDr.コトー先生の世界ですよね。合格者500人に戻すかわりにそうすればいい。

ですが、今は優秀な人は大手の法律事務所に入ろうとしていて、そちらの方向に向かっているわけでもない。本音と建前が交錯しているので、どっちなのかはっきりしろって言いたいわけです」

● AI時代にはクライアントの心情にどう寄り添うのかが重要

冨山氏は法曹養成のあり方を考えるうえで、AIの発展も踏まえるべきだと主張する。

「あらかじめ正解があって、そこにたどりつく能力はすでに生成AIに置き換わりつつあるので、既存の判例や法令を前提にして、10人が10人同じ結論に行くものはもう要らないのです。だから司法試験はしょせんエントリー試験であって、ますます本当の能力を測る試験にはなりません。

結局、法創造能力や制度デザインのクリエイティビティを発揮することが求められるわけです。それ以外でいうと、クライアントの心情にどう寄り添うかです。優秀な弁護士は優秀な臨床心理士的な側面もありますよね。クライアントが法的手段で戦うといっても、長期的利益に繋がる方向に誘導しなければいけませんし、それはEQ(感情知能指数)の世界になります。

そんなものは司法試験では測れない能力なのです。であれば、長い時間をかけて試験に受かるような仕組みではなく、もっと早めに社会に出して、クリエイティビティやEQを発揮できるように実地で訓練をしたらいいのです」

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