モルスタ出身の金融エリート、55歳で障害者支援の弁護士に 「金権派」はなぜ「人権派」へ?

モルスタ出身の金融エリート、55歳で障害者支援の弁護士に 「金権派」はなぜ「人権派」へ?

●急に整いはじめた諸制度

その更生支援計画をつくるのは主に社会福祉士だが、拘置所の面会に回数や時間制限があったため、せっかく出向いたのに無駄足になるという問題があった。

改善されたのはつい最近の2023年。日弁連から改善要望を出し、橘弁護士と法務省矯正局が中心となって通達を作成、社会福祉士については回数制限などをなくす運用に変わった。

また、同年12月の日弁連臨時総会では、社会福祉士らへの報酬について、将来的な公費化を目指すためのステップとして、日弁連から補助を出すことも決まった。

障害者に限った話ではないが、出所後などについても、再犯防止に向けて弁護士が支援する「よりそい弁護士制度」が全国に広がりつつあり、環境整備が急速に進んでいる。

●長く続く理由は「思い入れが強くないこと」

一方で、障害者刑事を専門にする弁護士はあまり多くない。困難を抱えた被疑者・被告人とのコミュニケーションはときに困難で、治療の過程では再犯による「裏切り」が起こることもある。粘り強く相手と向き合うことが求められる仕事だ。

「自分が長く続けられている理由の1つは、思い入れが強くないことかなと思います。周りに流されて刑事弁護人になってしまいましたが、もともとは『金権派』を自認していましたし、司法修習に行くまでは、死刑制度にも賛成の立場でした(もっとも、修習を通じて死刑制度に反対すべきと考えるようになりました)。今も『崇高な理念のため』という意識はないんですよね」

刑事弁護のセオリーからは外れるそうだが、被疑者・被告人に対し、我慢せず強く物を言うこともあるし、支援する相手が再犯をしてしまっても、仕方がないと割り切り、過度な期待はしないという。毎日、少しずつでも良くなればいい。

理系の学生時代や金融時代からは想像できない毎日。法律家になったことで考え方が変わったのではないかとも思えるが、「研究の仕方と一緒」だと言い切る。

「『客観』を集めて、並べて、分析していくことには変わりありません。愚直にその作業をしていくと、ときにはとんでもないことが分かって、見える景色が変わることもあるけど、それに応じた行動をとるだけ。

もちろん、学生のときのぼくには被疑者・被告人のことは理解できなかったかもしれない。でも、障害・病気が影響しているという知識を得たことで行動が変わりました」

他の弁護士に向けて、「見える景色や自分の考え方が変わっていく体験ができる仕事です。一度で良いので現場を見てもらうことをおすすめしたいですね」とアピールした。

【取材協力弁護士】
橘 真理夫(たちばな・まりお)弁護士
令和6年度第一東京弁護士会副会長。昭和59年3月早稲田大学大学院理工学研究科博士前期課程修了(工学修士)。東京銀行(現在の三菱UFJ銀行)に入行後、Merrill Lynch, Morgan Stanleyの役員を歴任。桐蔭横浜大学ロー、慶應義塾大ローを経て、弁護士登録(67期)。
事務所名:橘法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13103/l_434978/

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