
ちょっとお疲れ気味の時、自分をいたわるやさしいご飯が食べたくなりますよね。そんな私たちの心と体に、そっと寄り添ってくれるのが料理家・美窪たえさんのレシピ。今回は、「note創作大賞2025 レタスクラブ賞」を受賞した美窪さんに、「やわらかcuisine(キュイジーヌ)」の誕生秘話から、日々の料理がもっと楽しくなるアイデアまで、たっぷりお話を伺いました。

美窪たえさん
料理家、料理する人、食べる人。J.S.A.認定ソムリエ / SAKE DIPLOMA|OLからバーテンダー・日本料理人・フレンチコックを経て「おとな料理制作室」として活動中|note創作大賞2025 メディア賞「レタスクラブ賞」受賞|『おとな料理制作室へようこそ』(ワニブックス)
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始まりはバーテンダー。懐石料理の美しさに魅了され、料理の道へ

――まずは、美窪さんのこれまでの歩みについて教えてください。
美窪たえさん:実家が中華食堂を営んでいて、幼い頃から食がすぐそばにある環境で育ちました。初めの就職先は建築系の会社だったのですが、経営状況が変化していく中で、「自分の一生を支える“手に職”をつけたい」と強く思うように。そのとき、実家が飲食店だった影響もあって自然と食の世界に目が向いたんです。当時は空前のバーブーム。お稽古雑誌をめくっていたら、バーテンダースクールを見つけて「女性のバーテンダーって少ないし、何よりかっこいい!」と直感で決めて(笑)。働きながらスクールに通い、念願のバーテンダーとしての一歩を踏み出しました。
――バーテンダーから料理人へ、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
美窪たえさん:バーのカウンターはお客様から手元がよく見える場所。先輩から「所作を美しく磨くために茶道を始めてみたら?」と勧められたのが転機でした。そこで初めて本格的な「懐石料理」の世界に触れたのですが、お茶室の静寂や、派手ではないのに凛としたしつらえの美しさに、言葉にできないほど感動してしまって…。「なんて素敵な世界なんだろう!」という衝撃が、日本料理の道へ進む決意をさせてくれました。
――そこから厳しい修行の道を選ばれたのですね。
美窪たえさん:ツテも何もない状態だったので、雑誌を見て「ここで働きたい!」と思ったお店に片っ端から自分で電話をかけました。運よく雇っていただけた料亭で、日本料理の基礎を一から丁寧に叩き込んでいただいたことは、今でも私の大きな財産です。その後、ご縁があってフレンチの世界を学び、さらにアメリカンデリの厨房で多国籍な料理にも触れる機会をいただきました。日本料理の繊細さと、西洋料理の自由な発想。その両方を肌で感じられたことが、今の私のスタイルを作っています。
その後、デザイン会社のフードプロデューサーとしてメニュー開発やイベント企画に8年ほど携わり、料理家として独立しました。遠回りしたようですが、どの経験も今のひと皿に繋がっていると感じています。
料亭時代の「まかない」が原点。創意工夫で生まれる「おいしさ」の基礎

――プロとして多岐にわたる経験をお持ちですが、現在の料理スタイルの「原点」はどこにあるのでしょうか?
美窪たえさん:実は、修業時代に毎日食べていた「まかない」なんです。一般的に飲食店のまかないは、修行中の見習いが勉強のために作ることが多いのですが、私が最初に働いた料亭では、料理長である親方が自ら作るごはんを、毎日食べさせてくださいました。お店のストック野菜や、仕込みで出た魚のアラ、お肉の切り落としなど、形が不揃いだったり、ごく普通の手近な材料を使って、ササッと料理していくんです。普通の材料の組み合わせでも、ちょっとした工夫や気づきがあれば、驚くほどおいしいものがたくさん作れる。そのプロセスを間近で見て、実際に味わえたことが、私の今の料理の基礎になっています。
――これまでのお仕事を通じて、美窪さんが大切にされている「食への考え方」を教えてください。
美窪たえさん:飲食店ではサービスや価格も大切ですが、やっぱり何より大事なのは「おいしさ」だと思うんです。おいしいものを食べると、自然と楽しさや嬉しさが込み上げて、そこに笑顔が生まれますよね。私自身、料理が大好きなので、自分が食べて「おいしい!」と思えるものを作りたいですし、家族にもおいしく食べてほしい。だから、レシピを考えるときも自分で作るときも、「本当においしいかな?」という確認は、何よりも欠かさないようにしています。
――「おいしいかどうか」という確認。シンプルですが、とても大切ですね。
美窪たえさん:実はこれ、料亭時代の親方の教えなんです。修行中、親方に味見をお願いすると、まず「これは、おいしいのか?」って聞かれるんです。調味料を何杯入れたかとかいう理屈ではなくて、“まず自分が食べて心からおいしいと思えるものなのか”。その本質を叩き込まれました。だから今でも、私の料理の基準は「自分が本当においしいと感じるか」にあるんです。
基本的には「おいしいと感じるものが、結果的に自分の体に合っている」と考えています。忙しい毎日、毎食完璧に…とはいかない日もありますよね。でも、「おいしいものを食べたい」と心がけること自体が、心と体の健やかさに繋がっている気がします。
――「おいしい=体に合っている」というお話、すごく腑に落ちます!
美窪たえさん:必ずしも豪華なごちそうのことだけじゃなくて、たとえば、熱を出したあとに食べる温かな白粥。その時々に「おいしい、染み渡る…」と感じるものこそが、今の体が求めているもの。自分の体調と相談しながら、その時一番おいしいと感じるものを大切にしたいですね。

