●もし裁判の途中で廃棄されていたとしたら
今回の問題の背景には、2018年のヒグマ駆除から始まる一連の経緯がある。時系列でまとめると次のようになる。
2018年8月 池上さんが砂川市の依頼でヒグマを駆除
2018年10月 道警が銃刀法違反などの疑いで池上さんを在宅捜査、銃4挺を押収
2019年2月 道警が北海道公安委員会に猟銃所持許可取り消しを上申、池上さんを書類送検
2019年3月 札幌地方検察庁滝川支部が不起訴処分を決定、道警が池上さんの銃返還要求を拒否
2019年4月 公安委が池上さんの銃所持許可取り消し処分を決定
2019年6月 池上さんが行政不服審査請求を申し立て
2020年4月 公安委が審査請求棄却
2020年5月 池上さんが札幌地裁に行政訴訟を提起
2026年3月 最高裁で池上さんの勝訴判決確定
検察の言う「廃棄」が事実だとして、いつ廃棄されたのか。池上さんの代理人らは、少なくとも裁判提起のころには処分されていたのではないかと推測する。池上さん自身もほぼ同じ見方だ。
「すでに銃が廃棄されてしまったのに札幌地裁が原告勝訴判決を出しちゃったもんだから、向こうは控訴せざるを得なくなったんじゃないか。その時は、よもや二審判決が最高裁でひっくり返るなんて思っていなかったんでしょう」
●謝られても、いちばん肝心なことは何も説明されていない

公安委や警察、検察の対応も後手に回っており、不信感は募っている。
最高裁判決当日の謝罪文で、公安委は銃廃棄にまったく触れなかった。対面謝罪でも、道警は問題の1挺に一切言及しなかった。翌10日に代理人から照会を受けた検察もまた、回答を返すまでに4日間を費やした──。
この「廃棄」は適切だったといえるのか。中村弁護士が事態を把握した翌々日の4月16日、地元では札幌地検の新検事正着任記者会見が開かれることになっていた。
記者クラブ非加盟ながら同日の会見に参加した筆者は、この廃棄問題について加藤匡倫検事正に当時の処分の適正性を尋ねる機会を得ている。だが、その場で明答を得ることは叶わず、回答は「後日」に先送りとなった。
「そういったことが発生したということは承知をしております。この件につきましては後日、次席検事のほうから説明の機会を設けさせていただけたらと思っております」(加藤検事正)
本稿執筆時点(4月20日)で、その「説明」の機会はまだ設けられていない。
●「絶対に返さないぞ」処罰感情が暴走したのか

「捜査機関の『絶対に返さないぞ』という強い意志が垣間見えるようだ」
中村弁護士はそう指摘する。捜査当時、警察官が検察に退出した意見書には、池上さんの人格を否定するような文言を連ね、「短気で傲慢」「再犯のおそれがあり、改悛の情もない」「自己中心的」などの記述もあったという。
こうした“異常な処罰感情”の積み重ねが、今回の事態を招いたのではないか──。
最も重要な1挺は、なぜ廃棄されたのか。どのような手続きが取られたのか。池上さんと代理人らは、個人情報開示請求などを通じて、引き続き事実関係の解明を求めていく考えだ。

