深い観察眼から生まれた造形
動物形土製品は写実的なものからデフォルメされたものまでと幅広い造形が見られるように、本物そっくりに作ることが目的ではなかったようです。しかし縄文人たちは、驚くほど鋭い観察眼で、その動物の「本質」を造形に落とし込んでいます。
例えば、イノシシにはお尻の穴を作り、サルには頬袋(ほおぶくろ)を表現するなど、動物の身体的特徴を的確に把握していました。
なかでも北海道函館市で見つかった「シャチ形土製品」は、わずか6cmほどですが、シャチ独特のフォルムが見事に再現されています。特に、尾びれが水平に表現されている点は驚きです。魚の尾びれは垂直ですが、哺乳類であるシャチは水平。縄文人はその違いを熟知していました。
精悍な顔つきと天を突く背びれ。彼らにとってシャチは、海の幸をもたらす神か、あるいは人智を超えた力を振るう神だったのでしょうか。
⑨シャチ形土製品、函館市桔梗2遺跡出土 出典:Wikimedia Commons
かわいらしい動物形土製品には、厳しい自然のなかで生きた縄文人の切実な祈りが込められています。しかしそれと同時に、単なる儀式の道具を超えた、現代の私たちがペットに向けるような「親愛」の眼差しも感じずにはいられません。
小さな動物たちは、今の私たちにも通じる心暖まる造形となって、縄文人の心を伝えてくれているようです。
