「フロー型」と「ストック型」の使い分け、AI時代への備え
多様なデジタルメディアをどう使い分けるかも議論されました。東京慈恵会医科大学 乳腺・内分泌外科の伏見淳氏は、自身が代表を務める一般社団法人BC TUBEが運営する乳がん情報発信YouTubeチャンネル「乳がん大事典【BC Tube編集部】の経験から、情報発信を「フロー型」と「ストック型」に分ける考え方を紹介しました。
XなどのSNSは速報性に優れる「フロー型」のツールですが、情報は一定期間で役割を終え流れてしまいます。一方、YouTubeや学会のガイドラインなどは、長期的に参照される「ストック型」の情報です。伏見氏は、乳腺科医の査読に加え、一般市民のレビューも取り入れた高品質な動画をYouTubeに蓄積することで、幅広い世代の患者さんの意思決定を支援しています。
伏見淳氏
登壇者によるトークセッションでも、「SNSは情報源ではなく、あくまで正しい情報へ誘導するための広報ツール(通り道)であるべきだ」という認識で登壇者の意見が一致しました。山本氏は、「我々はSNSで誘導し、確かな情報があるウェブサイトなどを見てもらうことを考えています。SNSそのもので情報収集するのは危ないという啓発をすべきです」と語ります。
さらに、AIへの対応の重要性についても議論になりました。現在普及しているAIは、ネット上にある情報を学習データとして読み込んでいるため、学会の公式ウェブサイトのコンテンツが貧弱だと、AIはそちらではなくSNS上で多量に拡散された誤情報を学習し、そのまま患者さんに提示しかねません。後藤氏や山本氏は「学会の公式ウェブサイトの拡充や、ガイドラインのWebでの無料公開こそが、AIに正しい情報を学習させ、ひいては社会に正しい情報を届ける基盤になるでしょう」と訴えました。
発信側の医療者に求められるモラル
医療従事者がSNSを活用する上で、決して忘れてはならないリスクもあります。山本氏は、看護師が電子カルテを撮影してSNSに上げたり、医師が不謹慎な写真を投稿したりして炎上し、所属組織に多大なダメージを与える事例が後を絶たないと、これまでに報道された事件を示しながら警告。情報発信を行う際は「投稿前に、患者さんが見たらどんな気持ちになるだろうか」と想像するモラルが絶対の条件となることを強調しました。
一部の熱心な医師の「ボランティア」に頼るだけでは、インターネット上の不確かな、あるいは悪意ある情報に対抗して、がんに関する正しい医療知識を届けることが難しくなっています。学会が質の高い「ストック型」の一次情報をネットに公開し、行政や多様な団体がそれを分かりやすく整理し、そして専門家たちがSNSという「フロー型」のツールを使って人々を正しい方向へと導く――。がん患者さんに科学的に正しい治療を受けてもらうために、社会全体で「正しい情報の処方箋」をデザインしていくことが求められています。
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