挿絵画家たちを惹きつけた『いばら姫』の魅力
ウォルター・クレインが手がけたトイ・ブック『眠り姫』(1876年)の表紙, Public domain, via Wikimedia Commons.
誕生日に告げられた不吉な予言、100年もの間眠り続ける王女、いばらに覆われ何人たりとも寄せつけない城……。『いばら姫』には、神秘的なモチーフがいくつも登場します。
「挿絵本の黄金時代」を迎えたイギリスをはじめ、アメリカやヨーロッパで出版された多くの書物にも『いばら姫』が収録され、画家たちの美しい挿絵で飾られました。
今回は、「挿絵本の黄金時代」を代表するエドマンド・デュラック、ウォルター・クレインの作品をピックアップします。童話の登場人物に焦点を当て、どのように表現されてきたのかをたどってみましょう。
いばら姫と王子—エドマンド・デュラックによる華麗な表現
エドマンド・デュラックが挿絵を担当した豪華本『眠れる森の美女とその他の物語』(1910年)。王子が王女を発見し、一目で恋に落ちるシーン。, Public domain, via Wikimedia Commons.
エドマンド・デュラック(Edmund Dulac, 1882〜1953)は、流れるような筆致と、写実的で繊細な表現を得意とした画家です。フランスで生まれ、トゥールーズ美術学校で学びましたが、オーブリー・ビアズリー(※1)などイギリスの芸術家に憧れ、本国を離れます。
やがて、イギリスで挿絵画家としてデビューし、カラー印刷の挿絵と装飾が施された豪華本を手がけるようになりました。
『眠れる森の美女とその他の物語』の挿絵(上の画像)で、デュラックはリアルな表現を追求しながらも、ふたりが出会うシーンを、鮮やかな色彩で夢のように描き出しています。
ところで、グリム版の『いばら姫』とペロー版の『眠れる森の美女』は、大筋は似ているものの、キーとなる場面に違いが見られます。
王女が糸車のつむで指を刺し、100年の間眠りに落ちた後、『いばら姫』では魔法の力で時間の流れが止まった状態になりました。いっぽう、『眠れる森の美女』は、現実と同じ年月が過ぎ、王子が駆けつけた時点で、姫は100歳を超えていました。
デュラックの挿絵を見ると、王女が若々しい姿で描かれており、『眠れる森の美女』を下敷きにしながらも、『いばら姫』の要素を取り入れていることがうかがえます。
(※1)オーブリー・ビアズリー(Aubrey Vincent Beardsley, 1872〜1898)
19世紀後半、産業革命を経て絶頂期を迎えたイギリスで活躍したイラストレーター・グラフィックデザイナー。「美」のみを最高の目的とした「耽美主義」を代表する芸術家として活動しました。
