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挿絵で読み解く『いばら姫』—2つの童話と古代の文化が織りなす神秘的な世界

姫に呪いをかけた女性—ウォルター・クレインの異国情緒あふれるおとぎ話の世界

03_960px-The_sleeping_beauty_picture_book_-_containing_The_sleeping_beauty,_Bluebeard,_The_baby_s_own_alphabet_(1911)_(14777223774)ウォルター・クレイン『眠り姫』。王女が15歳の誕生日に、古い塔で糸車を回す老婆に出会う場面。, Public domain, via Wikimedia Commons.

ウォルター・クレイン(Walter Crane, 1845〜1915)は、19世紀後半にイギリスで活躍した画家で、全ページカラー刷りのトイ・ブック(※2)を生み出したことで知られています。
1867年頃、知り合いから日本の浮世絵を譲られたことがきっかけで、力強い輪郭線やフラットで鮮やかな色使いなど、その表現から強い影響を受けました。

また、手工芸や装飾芸術に美を見出し(※3)、衣服や室内のデザインに古典的な描き方を取り入れました。

『眠り姫』の挿絵(上の画像)では、古代ギリシャを思わせる女性像と服装が目を惹きます。いっぽうで、黒くはっきりとした線やあえて奥行きを排除した構図から、浮世絵の影響が感じられる、異国情緒が漂う作品です。

右側に描かれている老婆は、物語の冒頭で王女に不吉な予言をした人物ではないかと想像できます。ここにも、2つの童話で違いがあり、ペロー版では呪いをかけた女性は冒頭でしか登場しませんが、グリム版では糸車を回す老婆としてふたたび姿を現しているような描写があります。

トイ・ブックのテキストを読むと、『眠れる森の美女』をベースにしながらも、『いばら姫』のみに見られるシーンがあるため、クレインもまた、両方の童話を参考にして挿絵を制作したといえるでしょう。

(※2)トイ・ブックとは、8〜12ページほどの簡易なつくりの安価な絵本です。ウォルター・クレインは、彫版師・刷師のエドマンド・エヴァンズとともに、1865年にトイ・ブックを制作し、全ページカラー刷りの絵本を広めました。それまで、絵本のカラー印刷は表紙のみで、中の挿絵は手作業で色を塗っていたため、画期的な出来事でした。

(※3)クレインは、19世紀末から20世紀初頭のイギリスと欧米諸国で起こった「アーツ・アンド・クラフツ運動」にも参加。産業革命で衰退した手工芸や装飾芸術に再び光を当て、運動の中心人物であるウィリアム・モリス(1834〜1896)とともに活動しました。

なぜ賢女が登場するのか? 物語に残る古い信仰

04_The_sleeping_beauty_and_other_fairy_tales_-_color_plate_facing_page_007エドマンド・デュラック『眠れる森の美女とその他の物語』。パーティに招かれなかった妖精が王女に呪いをかけるシーン。, Public domain, via Wikimedia Commons.

ペロー版とグリム版で共通しているエピソードのひとつに、姫の誕生を祝福するパーティに、魔法の力を持った女性たちが呼ばれるシーンがあります。

ただし、王女に贈り物を授ける人物が、賢女か妖精かという違いが見られます。賢女とは、中世ドイツで、産婆や女医、薬剤師のように村人の暮らしを支えた女性たちのことです。(※4)

ところで、『いばら姫』は、『眠れる森の美女』がもとになったといわれており、グリム兄弟がより古代ゲルマン(※5)の文化に近づけようとしたため、妖精から賢女に書き換えたと考えられています。

さらに、長いこと子宝に恵まれなかった王と王妃が、カエルによって女の子を授けられるのも、『いばら姫』の特徴です。

05_Ludwig_Richter_-_Das_Dornröschenルートヴィヒ・リヒター(Ludwig Richter, 1803〜1884)による木版画。王妃が水浴をしていた際、カエル(左下)に子どもを授けられました。, Public domain, via Wikimedia Commons.

キリスト教が広まる以前の中世ヨーロッパでは、動物や自然が魔術的な力を持つと信じられていました。

かつて、カエルを生殖の神として崇める民間信仰が世界各地にあり、古代ゲルマンでも、カエルを雨や豊穣、幸福をもたらすものとして敬う文化がありました。

つまり、いばら姫はカエルという地下の力に導かれて誕生した存在で、王は娘祝福してもらうために、黄泉の国と親しい賢女を誕生パーティに招いたという見方ができるのです。

(※4)参考:高橋義人『グリム童話の世界—ヨーロッパ文化の深層へ』岩波書店、2010年、p.93

(※5)ゲルマン人とは、かつて北ヨーロッパにいたインド=ヨーロッパ系の民族で、ローマ帝国の時代には、ライン川の東・ドナウ川の北あたりに居住。4世紀になると、民族大移動を起こし、現在のドイツ・オーストリア・オランダ・イギリス・デンマーク・スウェーデンなどに多く暮らしていました。

配信元: イロハニアート

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