誰かの大切を継ぎ、記憶を慈しむひととき

上/添えられた札から、一つひとつのアイテムに宿る物語に思いをはせる時間がなんとも贅沢で楽しい 下/趣ある建物は昭和初期に建てられた個人宅をリノベーションしたもの
駅前のにぎわいを離れて、山の気配が濃くなる住宅街へ。古い民家の敷地を奥へと進むと、まるで時が止まったかのような空間が待っている。ここは、かつて誰かの暮らしに寄り添っていた道具たちが、新しい物語を待つ場所・「ものとかたり」。店主の川端美香さんが古道具の奥深さに気付いたのは、実家の家じまいがきっかけだった。両親の遺品を整理する中で、これまで知らなかった父母の姿や想いに触れ、再び出会い直したような感覚を覚えたという。「ものの中に、使っていた人の人柄が表れている気がして」。以来、写真家の野口玲さんと冊子『ものとかたり』を計4冊制作。実店舗は、そのコンセプトをより深化させる場所として開いた。
店内に並ぶ品々をよく見ると、それぞれに小さな札が添えられているのに気付く。“紙の服を着せられたって、心はいつも気高いまま。私、ビスクドール”。もののひとり言のような言葉に触れた瞬間、古道具が急に温かな体温を持った存在として語りかけてくる。ここでは歴史的価値や希少性は二の次。大切にしているのは、どんなふうに愛されてきたかという背景、そして手にした人がなにを想像するかという自由だ。「例えばこれが縄文土器ですよと言われても、本当かどうかはわからない。でも、そう信じることが楽しいんです」。真偽よりも、ものを介して広がる空想の楽しさを味わう。川端さんのそのしなやかな視点はそのまま、店内の居心地のよさにつながっている気がする。
気付けば窓の外の光が色を変えている。古道具の物語に引き込まれ、時間を忘れて過ごすひととき。このゆるやかな時間こそが、ここを訪れる人が手にするいちばんの宝物なのかもしれない。
スポットデータ|ものとかたり 長谷/古道具
TEL.なし
住所/神奈川県鎌倉市長谷5-7-21 奥
営業時間/12:00~17:00
定休日/Instagram:@monotokatariで要確認
価格例/丁寧に綴られた古い旅ノート2,200円など
アクセス/長谷駅より徒歩12分

