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取材レポート【森美術館「ロン・ミュエク」展】ロン・ミュエクの彫刻は、なぜ心をざわつかせるのか

会場エントランス会場エントランス

本展では、初期の代表作から近作まで11点を展示。そのうち6点が日本初公開です。2023年にパリのカルティエ現代美術財団で始まった展覧会を起点に、ミラノ、ソウルを経て東京へ巡回してきました。東京では、同財団と森美術館との共催により開催されます。

会場には、巨大な身体、小さな身体、眠る身体、漂う身体、そして無数の頭蓋骨が並びます。けれども、そこで見えてくるのは「すごくリアルな彫刻」という驚きだけではありません。そこには、人間の孤独、弱さ、不安、老い、死、そして尊厳が静かに立ち上がっています。

巨大な女性像が変える、見る側の距離感

会場で強く印象に残る作品のひとつが、巨大なベッドの上に女性が横たわる《イン・ベッド》です。女性はぼんやりとどこかを見つめています。物思いにふけっているのか、悲しんでいるのか、ただ空を眺めているのか。その表情は、はっきりとした答えを与えてくれません。

ロン・ミュエク 《イン・ベッド》 2005年ロン・ミュエク 《イン・ベッド》 2005年、所蔵:カルティエ現代美術財団

面白いのは、鑑賞者がこの女性と視線を合わせることが難しい点です。近づけば、肌や髪、しわの細部までじっくり見ることができます。けれども、もし相手が実際の人間であれば、そんなふうに見つめることは失礼にあたるでしょう。

ロン・ミュエク 《マスクⅡ》 2002年ロン・ミュエク 《マスクⅡ》 2002年、個人蔵

作品であるからこそ、私たちは通常ではありえない距離で、他者の身体を観察してしまう。その不思議な関係性が、この作品の緊張感を生んでいます。

本物そっくりなのに、どこかおかしい

ミュエク作品の特徴は、単に写実的であることではありません。実際の人物よりもはるかに大きく、あるいは小さく作られることで、私たちの知覚そのものを揺さぶります。公式サイトでも、その彫刻は私たちの「知覚に対する先入観への挑戦」であり、リアリティに迫りながらも、鑑賞者の解釈や思索を促す曖昧さを残していると紹介されています。

たとえば、小さなスケールで表された10代のカップル。一見すると、どこにでもいそうな若い二人に見えます。しかし背後に回ると、男性が女性の手首をつかんでいることに気づきます。それは愛情なのか、冗談なのか、それとも支配なのか。答えは示されません。ただ、親密さの中に潜む不穏さだけが、こちらに残されます。

ロン・ミュエク 《若いカップル》 2013年ロン・ミュエク 《若いカップル》 2013年、所蔵:ヤゲオ財団コレクション(台湾)

一方、水着姿の少女像は、通常の10代の女性より大きなスケールで表されています。彼女は鑑賞者と目を合わせず、横向きに立っています。成長する身体への戸惑い、見られることへの居心地の悪さ、自分自身を持て余すような感覚。そうした言葉にならない感情が、身体の姿勢そのものから伝わってきます。

ロン・ミュエク 《ゴースト》 1998/2014年ロン・ミュエク 《ゴースト》 1998/2014年、所蔵:ヤゲオ財団コレクション(台湾)

配信元: イロハニアート

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