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取材レポート【森美術館「ロン・ミュエク」展】ロン・ミュエクの彫刻は、なぜ心をざわつかせるのか

飛べない天使、漂う男

初期の代表作《エンジェル》も見逃せません。天使という題材でありながら、ここにいるのは神々しい存在というより、どこか不器用で、重たげな身体を持つ人物です。羽を持ちながら、飛び立てそうには見えない。理想化された天使ではなく、人間の弱さを背負ったような存在として立ち現れます。なお《エンジェル》は、本展の巡回のなかでも東京会場でのみ展示されている貴重な作品です。

ロン・ミュエク 《エンジェル》 1997年ロン・ミュエク 《エンジェル》 1997年、個人蔵

《舟の中の男》では、大きなボートの中に裸の男性がぽつんと座っています。どこから来て、どこへ向かうのかはわかりません。絶望しているようにも、これから起きることを静かに待っているようにも見えます。船というモチーフは、旅、漂流、死後の世界など、さまざまな物語を呼び込みます。しかしミュエクは、その意味をひとつに決めません。鑑賞者それぞれの記憶や想像力が、作品の中へ流れ込んでいくのです。

100の頭蓋骨が問いかけるもの

本展の大きな見どころとなるのが、《マス》です。100点の巨大な頭蓋骨の彫刻で構成された作品で、森美術館の空間に合わせた展示構成になっています。頭蓋骨は、美術史や宗教、医学、発掘、ファッションなど、さまざまな文脈で用いられてきたモチーフです。しかし、それが圧倒的な量として目の前に現れると、象徴を超えて、ひとつの風景のように迫ってきます。

ロン・ミュエク 《マス》 2016-2017年ロン・ミュエク 《マス》 2016-2017年、所蔵:ビクトリア国立美術館(メルボルン)、2018年フェルトン遺贈

そこから連想されるのは、戦争や災害、歴史の中で失われてきた無数の命かもしれません。あるいは、私たち自身もいつか同じ形へと還っていく存在であるという事実かもしれません。森美術館館長の片岡真実氏は、プレス説明会で、本展が人間に共通する本質や尊厳、ヒューマニティについて考える機会になると語っていました。《マス》の前に立つと、その言葉は抽象的な理念ではなく、身体に直接届く実感として迫ってきます。

配信元: イロハニアート

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