介護が必要になった際、老健(介護老人保健施設)の利用が候補に挙がることがあります。しかし、希望すれば誰でも入れるものではなく、一定の条件を満たさなければなりません。本記事では、老健の入所条件、手続きの具体的な流れ、在籍期間、かかる費用を解説します。

監修作業療法士:
稲木 康平(作業療法士)
経歴:回復期病棟で約9年ほど、患者様やご家族様のニーズに合わせたリハビリテーションを実施する。また、数多くの患者様に対して、退院後に快適な生活を過ごされるための自宅の環境調整や、介護サービスの提案、家族指導も行ってきた。
資格:作業療法士免許、医療経営士3級
老健(介護老人保健施設)の基礎知識

老健の正式名称は、介護老人保健施設です。1986年に当時の医療法改正により老人保健施設として創設されましたが、2000年の介護保険法が施行されて現在の名称になりました。病院での急性期治療を終えたものの、すぐに自宅へ戻るには身体機能や生活環境に不安がある方にとって復帰支援の場として位置づけられています。
老健の役割
老健は、介護保険法に基づいて設置される施設です。主に、以下のような役割を持っています。
包括的なケアサービス:介護が必要な高齢の方に対して、看護、介護などの必要な医療を提供する
リハビリテーション:理学療法士、作業療法士などが個別にリハビリを行う
在宅復帰、在宅療養の支援:自立した日常生活を営めるように支援し、自宅で暮らせる状態までの回復を目指す
地域との交流:地域の介護拠点の中心となる
利用者のケアだけでなく、介護予防も含めた教育や啓発など、幅広い活動を行う施設です。
ほかの高齢者施設との違い
老健とよく比べられる高齢者施設には、特別養護老人ホーム(特養)、介護医療院があります。
以下に、老健、特養、介護医療院の主な違いをまとめました。
施設種別 主な目的 医師の配置 終末期対応(看取り) 期間の目安
老健 リハビリ、在宅復帰 常駐 原則なし 3〜6ヶ月
特養
生活支援、終身利用
非常勤
(嘱託医)
あり
(看取りが主)
長期
介護医療院 長期療養、医学的管理 常駐 あり 長期
特養は主に生活の場として位置付けられており、重度の要介護者が長期間生活を送ることを前提にしています。介護医療院は生活支援に加えて、長期療養や看取りが目的です。
一方、老健はあくまでも自宅へ帰るためのトレーニングの場として考えられ、機能回復に重きが置かれています。
在宅復帰の可能性が重視される理由
老健が在宅復帰を重視する理由は、主に以下の2つです。
1つ目は、利用者や家族の生活の質の向上です。利用者が自宅で日常生活を送れると、プライバシーや生活の自由度が守られる、家族と過ごせる環境であるため、精神的な安定につながります。
2つ目は、介護保険制度、医療制度の仕組みによるものです。老健の介護報酬体系は、在宅復帰率が高い施設ほど高く設定されています。
厚生労働省は、老健を機能に応じて、基本型、加算型、強化型、超強化型、その他型の5段階にランク分けしています。ランクが高い超強化型として認められるには、退所者の多くが自宅へ戻り、退所後も訪問介護などのサービスを利用しながら生活を継続できている実績が必要です。
このように、利用者の生活の質と施設側の収入をどちらも上げられるため、在宅復帰は利用者側と施設側の双方にメリットがあります。
老健への入所条件

老健は、誰でも入れるわけではありません。施設側には、正当な理由なく入所希望者の受け入れを拒んではならないという決まりがありますが、実際は身体状況や介護度など、一定のハードルが存在します。
要介護度の要件
老健への入所対象者は、原則として要介護1以上の認定を受けた、65歳以上の高齢の方です。
特養は原則要介護3以上が必要なのに対し、老健は要介護1や2の方でも医学的リハビリが必要であれば入所できます。
要支援1、2では入所できませんが、介護予防短期入所療養介護(ショートステイ)としての利用は可能です。
また、40歳〜64歳の方であっても、若年性認知症や末期がんなどの特定疾病による要介護認定を受けていれば対象になります。
病状や医療ニーズの条件
老健は医療スタッフが配置されていますが、医療施設ではありません。そのため、入所の際は以下のような条件が求められます。
病状が安定している
医学的管理が必要である
リハビリの意欲や可能性がある
手術や緊急性の高い処置など、急性期の治療が必要な状態では入所できません。一方で、自宅での生活にはまだ不安があり、看護師による観察や経管栄養(胃ろう)、褥瘡処置などの処置が必要な場合は入所の対象となります。まったくリハビリテーションの効果が期待できない状態よりも、本人の身体機能を維持、改善する意欲や希望がある場合は入所が優先されます。
認知症、精神疾患がある場合の考え方
認知症や精神疾患がある方も、老健に入所可能です。多くの老健には認知症専門棟が設置されており、専門的なケアを提供しています。ただし、自傷や他害を起こす可能性、専門的な精神科の治療が必要な場合などは入所が断られる、または難しい場合があります。老健はあくまで共同生活の場です。周囲への影響の大きさや、スタッフ数など施設側の体制のバランスも考慮して判断されます。

