瑠美が会っていた男は、「彼氏」ではなく「愛人」だった。愛人と会うため、ライくんを放置しているのだと思ったサチ。忠告しようとするが、瑠美の真意は別のところにあると知る。彼女の打ち明ける、母親としての覚悟とは…?
「母親」としての真意とは
「彼氏?あー、そう伝えてましたね。…ただの愛人です」
そう言った彼女の表情は、なんとも胸がいたくなるものだった。
私の知っている瑠美さんは、明るくてチャーミングな…どちらかというと、「パワフルな若者」という印象だった。でも、今、目の前にいる瑠美さんは、どこか自分の人生をあきらめているような…くたびれた、三十路手前の女だった。
「ここの部屋…あの人が用意してくれてるんで…。ごきげんとっておかないと」
「ライくんは…」
「知ってますよ…。ここが"あの人の家"ってことは。さすがに愛人だとは言ってないですけどね。はは…だから、私があの人のとこに行っても、もんく言わないんですよ」
「だからって…」
「心配してくれてるのは伝わりますけど、これは私たちのことなので。鹿目さんはだまっててくれると助かります。特に、近所の人たちには。あることないこと言われるの、めんどうくさいので」
「ここから先には立ち入れさせません」という、壁を下ろされた感覚だった。
シンママの覚悟
「まあ…不倫関係なんて…あたり前にそう長くつづくとも思ってないんで。だから今のうちにはたらいて、お金を貯めておかないと…。ライは大学までいかせてあげたいんですよねえ。私は…あいつなんかいなくても、ちゃんとライを育てられる…」
「あいつ」というのは、元夫のことだろうか。
私よりもずっと年下の彼女が、そこまで背負っていたなんて。何も知らないとはいえ、「子どもを放って、夜な夜な男とあそびまくっている母親」だという目で見ていた自分を、少しだけ恥ずかしく思った。
「じゃあ、支度しないといけないので。…心配かけてすみません」
「あ…でもじゃあ、私がライくんにごはんをつくってあげるのはいいですか?」
「え?…あぁ…私は何もお返しできませんが、それでもいいなら」
私は「もちろん」というふうに、せいいっぱいの笑顔を返し、会釈をして立ち去ろうとした。
「鹿目さん」
すると、瑠美さんが私を呼び止めた。
「…もう一個だけ、いいですか」
「もうちょっとだけラクになりたくて」と、彼女は今にも泣きそうな表情で言った。

